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AI

AIによるデジタルカルテル・データ寡占の法律上の問題を5分で解説

2019.04.082019.04.08
データ独占
この記事の目次
    はじめに 近時、様々なデータ分析にAIが活用されています。そのため、AIにビジネスチャンスを見出している事業者は少なくないのではないでしょうか。 ただ、AIを事業に活用する際には、AIの特質から、さまざまな「法律」による規制がかかります。特にAIの活用方法次第では、事業者単体が市場を支配するだけのパワーを持つことも可能なため、市場の支配・独占を取り締まる「独占禁止法(通称:独禁法)」による規制がかかってきます。 そこで今回は、AIを活用する際に問題となる法律のうち、独禁法上の問題点についてITに詳しい弁護士が解説していきます。

    1 「AIと競争法」の法律上の問題点~独禁法とは~

    AI

    (1)AIとは?

    「AI」とは、人間のような知能をもつ人工知能のことをいいます。「AI」には種類があり、みなさんもよく知っているドラえもんのように感情や人間を超える高度な知性をもったAIは、「汎用型AI」または「強いAI」と呼ばれています。 一方で、人が考えていることを代替的に行わせるレベルのAIは、「特化型AI」または「弱いAI」と呼ばれています。現在の日本で用いられているAIは、「特化型AI」または「弱いAI」であり、「汎用型AI」や「強いAI」を作れるような技術到達点にはまだいたっていません。 昨今、この「特化型AI」は、データ分析の分野で活用されています。 たとえば、野球のチケットの価格を考えてみましょう。従来、チケット価格は全試合一律であることが一般的でしたが、東北楽天ゴールデンイーグルスは、AIを用いて需要と供給のバランスから価格を割り出す「ダイナミックプライジング」という価格変動制を導入しています。 土日や連休、引退試合など、みんなが見たがる試合のチケット価格は高く設定され、逆に、平日や雨の日など席が余りやすい試合のチケット価格は安く設定されるという仕組みです。 このように、AIは、様々な数値化された要素から顧客の満足度と利益が最大化する価格を割り出すといった分析の領域で活用されています。

    (2)独禁法とは?

    「独占禁止法」(通称、「独禁法」)とは、大企業などのパワーの強い事業者が力に物を言わせて市場を独占したり、中小零細企業などの弱者に対し競争原理を超えた嫌がらせをすることを禁止する法律です。 もっとも、独禁法の直接の目的は、「弱者の保護」ではなく、事業者間におけるフェアで自由な競争を促すことで、各事業者が自分の判断で自由に活動できる市場を生み出すことにあります。このような市場を作ることで、各事業者間に、より良い商品やサービスを作ろうという競争力が生じます。そのため、間接的にユーザーにとってもより良い商品やサービスを手に入れることができるというメリットがあります。 もっとも、悪意ある事業者や事業者団体によって、市場が支配されたり、歪められたり、破壊されてしまうことがあります。 そこで、独禁法は以下のルールを設けて、市場支配を防いでいます。 独占禁止法のルール 今回問題となるのは、AIがデータ分析に活用されるようになって生まれた「デジタルカルテル」や「データ寡占」が、上記独禁法のルールに違反しないかという点です。 仮に、「不当な取引制限」や「私的独占」にあたり、独禁法違反となった場合、事業者は、公正取引委員会から命じられた必要な措置(排除措置命令)を実行しなければなりません。 さらに、それとは別に、法人は、
    • 課徴金の支払い
    • 最大5億円の罰金
    のいずれか、もしくは両方を科される可能性があります。 また、事業者の役員は、
    • 最大5年の懲役
    • 最大500万円の罰金
    のいずれかを負う可能性があります。 これらのペナルティを負わないためにも、「デジタルカルテル」や「データ寡占」と独禁法の関係を理解する必要があります。

    この記事を書いた人

    勝部 泰之勝部 泰之弁護士
    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。
    一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科に在籍中。主な興味分野は経営学、高次元統計、自然言語処理、ゲーム理論、金融アルゴリズム、ブロックチェーン。
    研究リポジトリはこちら↗

    2 デジタルカルテル(AIによる価格設定)

    談合  

    (1)問題の所在

    「カルテル」とは、いわゆる談合です。事業者同士で話し合いを行い、本来、各事業者が自分で決めるべき商品・サービスの価格や生産量・販売量などを決定し、市場を支配してしまうことをいい、「不当な取引制限」として独禁法で禁止されています。 このように「カルテル」が禁止されているのは、価格などを事業者同士で相談すると、事業者間で競争をする必要がなくなるため、フェアで自由な競争がおきなくなり、経済が停滞するからです。 そして、「デジタルカルテル」とは、AIを用いた市場支配のことをいいます。 「デジタルカルテル」には、以下の4つの類型があります。
    1. 監視アルゴリズム
    2. パラレル・アルゴリズム
    3. シグナリング・アルゴリズム
    4. 自己学習型アルゴリズム
    これらの「デジタルカルテル」が独禁法に違反しないかが問題となります。

    ①監視アルゴリズム

    「監視アルゴリズム」とは、事業者間で価格合意を行ったあと、その合意通りの価格で販売されているかAIで監視して市場を支配することをいいます。 図解すると以下のとおりです。 監視アルゴリズム 一部の事業者が合意した価格よりも低い価格を設定して抜け駆けすれば、その商品ばかりが売れてしまいます。そのような事態を防ぐために価格の監視が行われます。従来どおり「人」が価格の監視を行うと、そこには人件費など大変なコストがかかります。ですが、「AI」を用いることでコストを減らして監視することが可能になります。

    ②パラレル・アルゴリズム

    「パラレル・アルゴリズム」とは、事業者間でアルゴリズム(算定方法)を共有することで、自動的に、競争の少ない支配された市場を形成することをいいます。アルゴリズムを共有することで、AIによる価格分析が同じ結論になりやすくなり、また、事業者間でアルゴリズムを共有すること以外に特段の連絡を取り合う必要がないため、発覚しにくいことが特徴です。 図解すると以下のとおりです。 パラレル・アルゴリズム 事業者間でアルゴリズムを共有する場合だけでなく、事業者間で相談のうえ、同一の開発者が作成したアルゴリズムを採用する場合も含まれます。

    ③シグナリング・アルゴリズム

    「シグナリング・アルゴリズム」とは、ある事業者がシグナリングを行い、他の事業者が追随するかAIで監視し、その結果に応じて販売価格を決定することをいいます。 ここでいう「シグナリング」とは、価格情報を他の事業者に伝えることをいいます。 図解すると以下のとおりです。 シグナリング・アルゴリズム 近時、ECサイトなどで価格情報が公開されていることが多いため、自らがしかけたシグナリングによって他社がどのように価格を変動させたのかをAIを用いてリアルタイムに監視することが簡単になりました。 また、シグナリング後、他社が価格を変動させない場合であっても、すぐにシグナリング前の価格に戻すことで、損失を抑えることも可能となります。

    ④自己学習型アルゴリズム

    「自己学習型アルゴリズム」とは、「汎用型AI」が自律的な学習を繰り返した結果、AI開発者が市場に競争制限をもたらす意図が全くないにもかかわらず、各事業者に導入された「汎用型AI」によって支配された市場が作られてしまうことをいいます。 このように、「デジタルカルテル」には、4つの類型がありますが、これらの類型が「不当な取引制限」として独禁法に違反するかが問題となります。

    (2)独禁法に違反するかどうかの判断基準

    独禁法上の「不当な取引制限」は、以下の3つの条件すべてをみたす場合に成立します。
    1. 事業者であること
    2. 他の事業者と意思の連絡をしていること
    3. 一定の取引分野における競争を実質的に制限(市場の支配)することとなること
    これらの条件のうちでも、特にポイントとなるのは、②の「意思の連絡」の有無です。 「意思の連絡」が条件として必要とされるのは、独禁法上のペナルティを負わせるべきでないケースを除外するためです。 たとえば、事業者自身には競争を制限し経済を停滞させる意図がないのに、結果的にたまたま複数の事業者の行動が一致してしまったというケースを考えてください。 このような場合にまで事業者にペナルティを負わせていては、事業者は事業を行うことに消極的になるおそれがあります。 そのため、「意思の連絡」を条件としているのです。 ここでいう「意思の連絡」は、A社「価格を○○にしましょう」、B社「そうしましょう」という明らかな合意だけでなく、「黙示による意思の連絡」と呼ばれるような、A社「価格を○○にしましょう」、B社「・・・(沈黙)」といった場合や、言葉にせずとも価格の引き上げ行為を事業者それぞれが認識してそれを黙認する場合にも認められます。 「デジタルカルテル」についても、以上の基準にあてはめて「不当な取引制限」にあたるかどうかを判断していくことになります。

    (3)デジタルカルテルは違法か?

    ①監視アルゴリズム

    「監視アルゴリズム」は、AIによって価格を監視する前に、事業者間において価格についての合意(=意思の連絡)が存在します。 そのため、「不当な取引制限」として禁止されている「カルテル」にあたり、独禁法違反となります。

    ②パラレル・アルゴリズム

    「パラレル・アルゴリズム」は、アルゴリズムを共有する点で、事業者間に、競争制限的な価格とする明示または黙示の合意(=意思の連絡)があったと考えられます。「意思の連絡」があるため、「不当な取引制限」として禁止されている「カルテル」にあたり、独禁法違反となります。

    ③シグナリング・アルゴリズム

    「シグナリング・アルゴリズム」は、上の図からもわかるとおり、他の事業者との間に明らかな合意はありません。 そのため、シグナリングを行った場合、市場の支配について他の事業者との間に黙示の意思の連絡がない限り、「不当な取引制限」にはあたらず、独禁法違反にはなりません。 もっとも、「シグナリング・アルゴリズム」については、以下のケースが引き起こされる可能性があることに留意が必要です。
      【AI同士の相互作用による市場支配】 A社がシグナリングを行いある製品の価格を引き上げた際に、B社のAIが他社の最低価格に合わせて価格調整を行うアルゴリズムをとっていた場合、A社・B社それぞれの製品の値段が上がり、その状態が維持されてしまうケース。
    このようにAI同士の相互作用によって市場が支配されてしまうようなケースについて、現行の独禁法はカバーしていません。 今後、AI同士の相互作用を「意思の連絡」に含めるのかなど、公正取引委員会がどのような判断を示すのかが注目されるところです。

    ④自己学習型アルゴリズム

    自律的な学習を繰り返す「汎用型AI(強いAI )」を作ることができる技術水準には至っていない現状において、「自己学習型アルゴリズム」が市場を支配することがあり得るのかは未知数です。この点も現行の独禁法ではカバーしていないため、将来的にどのような法律規制がなされるのか注視していく必要があります。 以上のように、AIがデータ分析に活用されるようになった結果、AIを用いたカルテルが問題となっています。現行の独禁法では、AIを想定した規制がなされていない部分もあるため、今後の展開を注視していくことが大事です。 また、AIをデータ分析に活用するためには、AIに学習をさせる必要があります。この学習をするためのデータを独占すること(=データ寡占)も、市場支配につながるため、独禁法に違反しないかが問題となります。

    3 データ寡占(AI学習に用いるデータの独占)

    学習

    (1)問題の所在

    「データ寡占」とは、個人情報や産業データなどといった様々なデータを少数の事業者が独占することをいいます。 データ寡占は、AIを学習させるためのデータが欲しいのに、少数の事業者にデータが集中することで、他の事業者が集められないという問題を引き起こします。 AIを学習させるためには、
    1. 学習用データセット
    2. 学習用プログラム
    が不可欠です。 「学習用データセット」とは、様々な方法で収集した「生データ」からノイズとなるデータを除去したりして、AIが学習しやすいように加工したデータをいいます。 「学習用プログラム」とは、学習用データセットを通じて、AIが学習するためのプログラムです。 「学習用プログラム」は、「TensorFlow(テンソルフロー)」や「Chainer(チェイナー)」などがOSSとして公開されているため、簡単に手に入れることができます。 一方で、「学習用データセット」や「生データ」は事業者が自分で用意する必要があります。そのため、良質なデータを数億収集できるか否かが、AIの性能に大きな差を生み出す要因となります。 他の事業者よりも精度の高いAIを開発するためには、質の良い「生データ」や「学習用データセット」が大量に必要になります。 ですが、データ寡占によって、一部の事業者にデータが集中すると、データを持っていない事業者はAIを学習させるためのデータを簡単に手に入れることができなくなります。なぜなら、大量のデータを収集するには、多くの時間と、コストが必要だからです。 たとえば、新規参入者がGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)と呼ばれる巨大なデジタルプラットフォーマーと同等のデータを収集しようとした場合、多くの時間と、コストが必要で、経済的に困難であることがわかるかと思います。 そのため、データを手に入れることのできない事業者は、競争の土俵そのものにあがれないおそれがあります。 そうなると、データを持つ者が市場を牛耳るようになる結果、市場において競争が生じなくなり、市場は発展していきません。 以上のように、データ寡占は、市場における競争に悪影響を与える可能性があるため、独禁法の「私的独占禁止」に違反するおそれがあります。 次の項目では、どのような場合に「私的独占」となるのか?そのルールを確認していきましょう。

    (2)独禁法の「私的独占禁止」のルール

    独禁法は、不当な取引制限のほか「私的独占」も禁止しています。 「私的独占」とは、事業者が、公正な競争の範囲を逸脱して、方法を問わずライバルを排除したり、他の事業者を傘下に組みこむことで、市場を支配する行為をいいます。 データもそれ自体が取引の対象となるため、データ取引において競争に悪影響を与える行為が行われれば、独禁法に違反する可能性があります。 「私的独占」は以下の3つの条件すべてをみたす場合に成立します。
    1. 事業者であること
    2. ライバルを市場から排除したり他の事業者を支配していること(支配要件)
    3. 一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなること(競争の実質的制限)
    ①の条件は明確であるため、ここでは条件②と条件③について、見ていきます。

    ① 【条件②:支配要件】

    ここでいう「排除」とは、取引相手に自分以外の事業者との取引を禁止するといったように、ライバルの事業継続やスタートアップの事業開始を難しくさせることをいいます。 「他の事業者を支配する」とは、他の事業者の株式を取得して言いなりにさせたり、市場における地位を利用して他の事業者の活動を制約することなどをいいます。 もちろん、事業者が品質に優れた安い商品を提供したり、良いサービスを提供することで、競争に勝ち、結果的に市場を独占することになった場合には、私的独占にあたらないことになります。

    ② 【条件③:競争の実質的制限】

    「一定の取引分野(市場)」について、その範囲を画定させなければ、そもそも特定の事業者が市場を支配しているか否かを見極めることはできません。この点は、基本的に、「一定の取引分野」としての商品・サービスの範囲、取引の地域の範囲などを、「需要者の代替性」という観点から画定させます。 具体的な検討の流れは、以下のようになります。
    1. A社が東京において、たわしを独占的に販売していると仮定します。
    2.         ↓
    3. A社が、たわしの価格を1個500円から550円に値上げしたとします。
    4.         ↓
    5. A社からたわしを購入していた顧客が、他社のたわしに切り替える割合を確認します。
    6.         ↓
    7. A社からたわしを購入していた顧客が、東京以外の他の地域で買うようになる割合を確認します。
    8.         ↓
    9. ③・④の確認の結果、他社のたわしに切り替えたり、購入地域を東京以外の地域に切り替える人が少なく、値上げした50円分の利益をA社が得られる場合、A社にとって東京が独禁法上の「一定の取引分野(市場)」となります。
    他の地域、単位(市町村、県、国など)との関係でも、上のフローで検討を行うことで、市場の範囲を画定することができます。 複数の事業を行っている事業者の場合は、事業ごとに「市場」が判断されることになります。たとえば、事業のひとつとして「無料」のサービスを行っていた場合でも、価格のみでなく、サービスの内容や質によってライバルと競争が起きる場合があります。 そのため、このような場合には、「一定の取引分野=無料市場」と判断されることがあります。 また、「競争の実質的制限(市場の支配)」とは、市場において、競争が減ってしまうことをいいます。 競争が減ったかどうかは、以下の項目などから個別の事情に応じて判断されることになります。
    • ライバルを市場から排除する行為の内容
    • 他の事業者を支配するありさま
    • 取引制限を加えることに合理的な理由があるか
    • 事業者間の競争があるか
    • シェアや順位などの事業者が市場において占める地位
    • 問題となっている市場全体の状況
    これらの条件にあてはまるかどうかを検討することにより、AI学習に用いるためのデータの寡占が独禁法上の「私的独占」にあたるかどうかを判断することになります。

    (3)AI学習に用いるデータの寡占について

    ①「一定の取引分野(市場)」について

    データを取引する場合における市場は、商品の取引などと異なり、多くの場合、取引地域が広くなります。 なぜなら、データは簡単に複製することができ、その取引も、商品の取引などとは違い、輸送などを必要としないためです。 そのため、取引対象としてのデータが日本国内に限らず、国外においても需要があるものであれば、取引地域は国境をまたぐことになります。 たとえば、ある日本の事業者が、日本の道路を全て網羅した360度画像のデータを独占的に販売しており、アメリカの事業者がそのデータを買っているとします。日本の事業者がデータの値上げを行ったとしても、アメリカの事業者は同じデータを他の事業者から買うことができず、値上げされたデータを買わざるを得ない場合、取引地域は、日本のみならずアメリカも含まれると考えられます。 また、特定の分野に用いるためのデータは、その分野において市場が画定されます。 たとえば、AIに画像認識をさせるための「学習用データセット」や「生データ」を取引する場合、その市場は、AIの開発という市場ではなく、「画像認識」という分野での市場ということになります。

    ②「競争の実質的制限(市場の支配)」について

    データには、以下の特徴があります。
    • ある事業者が既に収集しているデータでも他の事業者が同じ情報を別途収集することができること
    • 異なる種類のデータを組み合わせて利用することで新たな価値を持つ可能性があること
    • 同様のデータを大量に集めることで利用価値が増大する可能性があること
    • SNSなどそれまでのデータの積み重ねによって、他のサービスへの切り替えが困難となるロックイン効果が生じる場合があること
    そのため、「競争の実質的制限(市場の支配)」を検討する際には、これらのデータの特徴を踏まえる必要があります。 具体的には、先ほど示した
    • ライバルを市場から排除する行為の内容
    • 他の事業者を支配するありさま
    • 取引制限を加えることに合理的な理由があるか
    • 事業者間の競争があるか
    • シェアや順位などの事業者が市場において占める地位
    • 問題となっている市場全体の状況
    といった項目に加えて、以下の項目も考慮したうえで、競争が減ったかどうかを個別の事情に応じて判断することになります。
    • 市場への新規参入者が同程度の利用価値があるデータを集めることが、技術的・経済的に可能かどうか
    • 事業者間において「生データ」を収集する能力に大きな差があり、市場支配の形成、維持、強化とならないか
    事業者間において、「生データ」を収集する能力に大きな差が生まれるのは、入手経路が限定されている場合などです。たとえば、「生データ」を収集するために特殊なセンサーの設置が必要で、そのセンサーから収集するデータ以外に代替するデータがない場合には入手経路が限定されているといえます。 また、データ寡占によって、データを独占している事業者にさらにデータが集まるというサイクルが生まれる場合もあります。 以下の図をご覧ください。 寡占によるデータ集中サイクル データ寡占によって、データを大量に収集している特定の事業者が高性能なAIを生み出します。高性能なAIを有する事業者が、他にない技術を生み出したり、より良いサービスを提供することで、ユーザーが集中し、さらなるデータ収集が可能となります。このサイクルを繰り返すことで、データを大量に収集している事業者にさらにデータが集まることになります。そうすると、ライバルやスタートアップが「生データ」を収集することが困難な状況が生まれてしまいます。 このような状況を形成、維持、強化するために、ライバルを市場から排除したり他の事業者の支配を行えば(条件②)、「私的独占」として、独禁法違反となる可能性が高いと考えられます。 ※データ取引と独占禁止法について詳しく知りたい方は、公正取引委員会がまとめた「データと競争政策に関する検討会報告書」をご参照ください。

    4 小括

    まとめ 現行の独禁法は、AIの活用を想定されて作られたものではありません。 もっとも、現行の独禁法に照らしても、AIの活用やデータの独占が市場を支配している場合には、独禁法違反となる可能性があります。 AIをデータ分析に用いる際には、「独禁法」という法律にも配慮する必要があることを十分に理解したうえで、現行の独禁法に違反しないようにするとともに、改正を含めた今後の動きについても注視していくことが重要です。

    5 まとめ

    これまでの解説をまとめると、以下のようになります。
    • 「独禁法」とは、事業者や事業者団体に対してのルールが書かれた法律である
    • 「独禁法」は、「不当な取引制限」と「私的独占」を禁止している
    • 「カルテル」とは、事業者同士で話し合いを行い、本来、各事業者が自分で決めるべき商品・サービスの価格や生産量・販売量などを決定し、市場を支配してしまうことをいい、「不当な取引制限」として、独禁法で禁止されている
    • 「デジタルカルテル」はカルテルをAIを用いて行うことである
    • 「デジタルカルテル」には、①監視アルゴリズム、②パラレル・アルゴリズム、③シグナリング・アルゴリズム、④自己学習型アルゴリズムの4つの類型がある
    • シグナリング・アルゴリズム、自己学習型アルゴリズムのように、現行の独禁法ではカバーされていないものがある
    • 「データ寡占」とは、個人情報や産業データなどといった様々なデータを少数の事業者が独占することである
    • AIの性能は、「学習用データセット」やその基となる「生データ」の量と質で決まる
    • 「データ寡占」も、「私的独占」として、独禁法違反となる可能性がある
    AUTHOR
    勝部 泰之

    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。 一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(M1・清水研究室)。

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