AIによる配置転換は違法か?HRテック導入で注意すべき5つこと!
2018.09.11

この記事の目次
はじめに
近年注目を集めている「〇〇テック」という名前のサービスのうち、人事管理とITを掛け合わせたものを「HRテック(エイチアールテック)」といいます。HRテックでは、AIに人事関連業務を行わせることで人件費の削減や業務の効率化が期待できます。
では、AIが「配置転換」を命じた場合、法律上有効となるのでしょうか。人による配置転換命令と異なる部分はあるのでしょうか。現状のAIの技術的進歩ではこのような問題は起こりえないとも思われますが、理論上は問題になりえます。
もっとも、この点について具体的に分かる方はほとんどいないかと思います。
そこで今回は、AIが遂行する人事関連業務のうち、「従業員に対する配置転換命令」を想定して、その有効性や関連する問題点などを詳しく解説していきます。
「AI」とは、「Artificial Intelligence」の略で、人工的に作られた人間のような知能(人工知能)のことをいいます。人間と同じような知的行動をロボットやコンピューターシステムに行わせることを目的としていて、iPhoneのsiriやお掃除ロボットなど、AIが搭載されている商品を活用されている方も多いかと思います。
「人間のような知能をもったAIロボット」というと、多くの方はドラえもんのように人間と同じレベルでコミュニケーションをとれるものを想像するかもしれません(このようなAIを「汎用型AI」や「強いAI」と呼びます)。ですが、残念ながら現在の技術ではそこまでのレベルには至っていません。
現状普及しているAIは、「人間がやっていた作業を代わりに行わせる」ものであって、あくまでも「人間の代替ツール」なのです(このようなAIを「特化型AI」や「弱いAI」と呼びます)。
そのため、「AIが自らの力で考え配置転換を命ずる」というケースが実際に起こるのは技術的にまだ先の話となります。
以下では、「仮にこのような事案が発生したら」という想定で、AIによる配置転換の法律上の問題点や対処法の解説を進めていきます。
※AIに関する法律上の問題点については、以下の記事もご参照ください
「配置転換」とは、同じ会社の中で、職種や業務内容・勤務地が変わる人事異動のことをいいます。昔ながらの日本の長期雇用慣習のもとでは、労働ニーズの変化に対応するため、頻繁に配置転換を行う傾向があります。
配置転換の効果としては、以下のようなものが挙げられます。
AIの適切な判断に基づいて命じた配置転換であっても、不当な配置転換となり得る場合があります。そのような場合に、労働者は、「AIによる配転命令権の濫用」を主張することができるのでしょうか。
改めて確認しますが、配置転換が「権利濫用」といえるためには、以下のいずれかにあてはまることが必要でした。
仮にAIが命じた有効な配置転換に対し、従業員がこれを拒否した場合、雇用者はどのような手段がとれるのでしょうか?
通常、従業員が配置転換命令を拒否することは、業務命令違反となります。業務命令違反は、「雇用契約上の義務違反」であり、就業規則などに定められたルールを破ることになります。そのため、雇用者は、従業員に対して「懲戒解雇」という重い処分を下すことができます。懲戒解雇は、会社の秩序を乱すような行為をした従業員に対してなされる制裁としての解雇処分であり、会社が課すペナルティの中で一番重い処分です。
ただし、配置転換を拒否した従業員に対して、直ちに懲戒解雇を言い渡すことはおすすめできません。何の説明もなしに突然懲戒解雇をした場合、解雇権の濫用として解雇処分そのものが無効となる場合があります。そのような場合、解雇の言い渡しから解雇の無効が確定するまでの間に発生した給与を支払わなければならなくなるなど、会社にとっては大きな損害となる可能性があります。
そのため、懲戒解雇をする際には、あらかじめ配置転換を拒否した従業員に対してきちんと説明責任を果たすことが重要です。
具体的には、その従業員との間で、配置転換の理由、配置転換後の配属先や業務内容、生活の変化に対する会社のサポート体制などを説明する場を設け、配置転換を受け入れてもらえるようしっかりと話し合いをすることが必要となります。
このような話し合いを複数回繰り返したものの、従業員が配置転換を拒否したり、話し合いそのものを拒否するようであれば、最終手段としての懲戒解雇処分を言い渡すことになります。
以上のような手順を踏むと、通常、配置転換命令から解雇処分に至るまでに1か月以上の時間がかかってしまいます。それだけの時間とその間に支払わなければならない従業員への給料がもったいないと感じる方もいるかもしれませんが、きちんとした手順を踏まなければ、後に裁判を起こされる可能性を残すことにもなります。裁判になった場合、不当解雇であると裁判所に判断され、多額の賠償金を支払わなければならない、といったことにもなりかねません。
このような事態を避けるためにも、あらかじめ話し合いの場を設けることはとても重要なことなのです。
AIが命じた配置転換の有効性は、基本的に人が命じた配置転換の場合と同じ基準で判断されます。配置転換を想定している事業者は、就業規則などにその旨を定め、また、従業員が入社する際にその旨の合意をしっかりしておくことが必要です。また、後々トラブルにならないためにも、配置転換を拒否する従業員に対する対応についてもきちんと手順を踏んで行うことが重要です。
1 AIとは?
「AI」とは、「Artificial Intelligence」の略で、人工的に作られた人間のような知能(人工知能)のことをいいます。人間と同じような知的行動をロボットやコンピューターシステムに行わせることを目的としていて、iPhoneのsiriやお掃除ロボットなど、AIが搭載されている商品を活用されている方も多いかと思います。
「人間のような知能をもったAIロボット」というと、多くの方はドラえもんのように人間と同じレベルでコミュニケーションをとれるものを想像するかもしれません(このようなAIを「汎用型AI」や「強いAI」と呼びます)。ですが、残念ながら現在の技術ではそこまでのレベルには至っていません。
現状普及しているAIは、「人間がやっていた作業を代わりに行わせる」ものであって、あくまでも「人間の代替ツール」なのです(このようなAIを「特化型AI」や「弱いAI」と呼びます)。
そのため、「AIが自らの力で考え配置転換を命ずる」というケースが実際に起こるのは技術的にまだ先の話となります。
以下では、「仮にこのような事案が発生したら」という想定で、AIによる配置転換の法律上の問題点や対処法の解説を進めていきます。
※AIに関する法律上の問題点については、以下の記事もご参照ください
- AIの暴走に誰がどんな法律上の責任を負うのか?弁護士が5分で解説
- 自動運転事故で誰がどんな法律上の責任を負うの?6つの視点で解説
- AIの創作物に誰が著作権を持つのか?AIの法律問題を弁護士が解説
- AI導入に伴う整理解雇は法律上有効か?企業が知るべき4つのこと!
- AI・データの利用に関する契約ガイドライン AI 編(経済産業省)
- 知的財産推進計画2016(内閣府 知的財産戦略本部)
2 配置転換とは
「配置転換」とは、同じ会社の中で、職種や業務内容・勤務地が変わる人事異動のことをいいます。昔ながらの日本の長期雇用慣習のもとでは、労働ニーズの変化に対応するため、頻繁に配置転換を行う傾向があります。
配置転換の効果としては、以下のようなものが挙げられます。
- 従業員を適材適所に配置できる
- 異動による組織活性化
- 事業活動の変化へ対応できる
- 人材育成ができる
3 配置転換が認められるためには?
(1)配置転換の要件
配置転換は、雇用者がいつでも自由にできるわけではありません。従業員の配置転換をするには、以下の2つの要件をみたす必要があります。- 労働協約や就業規則に配置転換を行う可能性のある旨の規定があって、それまでに実際に配置転換が行われていたこと
- 従業員として採用されるときに、勤務場所や職種を限定する合意がなされていなかったこと
(2)配転命令権の濫用
雇用者に配転命令権があって、一見有効な配置転換のようにみえても、それが「配転命令権の濫用」である場合には、その配置転換は無効となります。「濫用」とは、むやみやたらにその権利を行使することをいいます。 配置転換が権利濫用となるかどうかは、業務上の必要性と従業員の不利益を比較考量して判断します。具体的には、以下の3つの要件にあてはまるかどうかを検討します。- 配転命令に業務上の必要性が無いとき
- 配転命令に不当な動機や目的があるとき
- 配置転換による労働者への不利益が、通常受け入れるべき程度を著しく上回るものであるとき
①配転命令に業務上の必要性が無いとき
「業務上の必要性」については、他の従業員では代わりが利かないといったように高度の必要性がある場合に限定されません。 労働力の適正な配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の向上、業務運営の円滑化など、企業運営に合理的な効果があると認められる限り、業務上の必要性は肯定される傾向にあります(=必要性については緩やかな判断がなされているということがいえます)。②配転命令に不当な動機や目的があるとき
「配転命令に不当な動機や目的があるとき」とは、例えば、従業員を退職させることを目的として配置転換命令がなされた場合をいいます。 また、社長の経営方針に批判的な従業員を本社から排除するためになされた配置転換命令も、不当な動機や目的があると判断されます。③配置転換による労働者への不利益が、通常受け入れるべき程度を著しく上回るものであるとき
これは、配置転換をする業務上の必要性に比べて、その命令により従業員が受ける生活上・職業上の不利益がとても大きいことをいい、- 賃金の減少や通勤時間の増加など、「労働条件に関する不利益」
- 労働者自身や家族の健康の保持に関する「社会生活上の不利益」
4 AIが命じた配置転換は権利濫用となるか?
AIの適切な判断に基づいて命じた配置転換であっても、不当な配置転換となり得る場合があります。そのような場合に、労働者は、「AIによる配転命令権の濫用」を主張することができるのでしょうか。
改めて確認しますが、配置転換が「権利濫用」といえるためには、以下のいずれかにあてはまることが必要でした。
- 配転命令に業務上の必要性が無いとき
- 配転命令に不当な動機や目的があるとき
- 配置転換による労働者への不利益が、通常受け入れるべき程度を著しく上回るものであるとき
(1)要件1「業務上の必要性」について
まず、AIはそれまでのさまざまなデータを基に独自に分析して、「どの従業員をどの部署に異動させるか」という点について判断します。これは、人による「勘や経験を基にしたアナログな判断」に比べて、企業の合理的な運営に合致した判断であるといえます。 そのため、AIによる配置転換命令は、「1.業務上の必要性」があると認められる可能性が高いと考えられます。(2)要件3「労働者への不利益」について
次に、「配置転換命令が従業員へ著しい不利益を負わせる」かどうかという点についてですが、これが認められるためには、配置転換をされることにより労働者が介護や看病を必要とする家族の面倒を見ることができなくなるといった、特別な事情があることが必要でした。そうだとすれば、AIによる配置転換命令によって、「3.労働者への不利益が、通常受け入れるべき程度を著しく上回るものである」と判断されるのはごく稀なケースであるといえます。 以上より、AIによる配置転換命令が3つの要件をみたす可能性はとても低いため、権利濫用とはならないケースがほとんどであると考えられます。言い換えると、AIが命じた配置転換は、ほとんどの場合が有効に認められるということになります。 もっとも、AIが命じた配置転換に対し、従業員がこれを拒否することは大いに考えられます。そのような場合、雇用者はどのような対応をすべきでしょうか。次の項目で、詳しく見ていきましょう。5 AIが命じた配置転換を拒否した場合の対処法
仮にAIが命じた有効な配置転換に対し、従業員がこれを拒否した場合、雇用者はどのような手段がとれるのでしょうか?
通常、従業員が配置転換命令を拒否することは、業務命令違反となります。業務命令違反は、「雇用契約上の義務違反」であり、就業規則などに定められたルールを破ることになります。そのため、雇用者は、従業員に対して「懲戒解雇」という重い処分を下すことができます。懲戒解雇は、会社の秩序を乱すような行為をした従業員に対してなされる制裁としての解雇処分であり、会社が課すペナルティの中で一番重い処分です。
ただし、配置転換を拒否した従業員に対して、直ちに懲戒解雇を言い渡すことはおすすめできません。何の説明もなしに突然懲戒解雇をした場合、解雇権の濫用として解雇処分そのものが無効となる場合があります。そのような場合、解雇の言い渡しから解雇の無効が確定するまでの間に発生した給与を支払わなければならなくなるなど、会社にとっては大きな損害となる可能性があります。
そのため、懲戒解雇をする際には、あらかじめ配置転換を拒否した従業員に対してきちんと説明責任を果たすことが重要です。
具体的には、その従業員との間で、配置転換の理由、配置転換後の配属先や業務内容、生活の変化に対する会社のサポート体制などを説明する場を設け、配置転換を受け入れてもらえるようしっかりと話し合いをすることが必要となります。
このような話し合いを複数回繰り返したものの、従業員が配置転換を拒否したり、話し合いそのものを拒否するようであれば、最終手段としての懲戒解雇処分を言い渡すことになります。
以上のような手順を踏むと、通常、配置転換命令から解雇処分に至るまでに1か月以上の時間がかかってしまいます。それだけの時間とその間に支払わなければならない従業員への給料がもったいないと感じる方もいるかもしれませんが、きちんとした手順を踏まなければ、後に裁判を起こされる可能性を残すことにもなります。裁判になった場合、不当解雇であると裁判所に判断され、多額の賠償金を支払わなければならない、といったことにもなりかねません。
このような事態を避けるためにも、あらかじめ話し合いの場を設けることはとても重要なことなのです。
6 小括
AIが命じた配置転換の有効性は、基本的に人が命じた配置転換の場合と同じ基準で判断されます。配置転換を想定している事業者は、就業規則などにその旨を定め、また、従業員が入社する際にその旨の合意をしっかりしておくことが必要です。また、後々トラブルにならないためにも、配置転換を拒否する従業員に対する対応についてもきちんと手順を踏んで行うことが重要です。
7 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下のようになります。- 人事管理とITを掛け合わせたものを「HRテック(エイチアールテック)」という
- 「HRテック」とは、ビッグデータの解析やAIなどの最先端の技術を使い、採用や評価、育成などの人事関連業務を行うことをいう
- 「配置転換」とは、同じ会社の中で、職種や業務内容・勤務地が変わる人事異動のことをいう
- 雇用者が配置転換を行うには、①労働協約や就業規則に配置転換を行う可能性のある旨の規定があって、実際に配置転換が行われていたこと、②従業員として採用されるときに、勤務場所や職種を限定する合意がなされていなかったこと、の2つの要件をみたす必要がある
- AIが従業員の配置転換を命じた場合でも、人が配置転換を命じた場合と同様に、2つの要件をみたしていれば配置転換は有効に認められる
- 雇用者に配転命令権があって、一見有効な配置転換のようにみえても、それが「配転命令権の濫用」である場合には、その配置転換は無効となる
- 配置転換が権利濫用となるかどうかは、業務上の必要性と従業員の不利益を比較考量して判断する。具体的には、①配転命令に業務上の必要性が無いとき、②配転命令に不当な動機や目的があるとき、③配置転換による労働者への不利益が、通常受け入れるべき程度を著しく上回るものであるとき、の3つの要件にあてはまるかを検討する
- AIが命じた配置転換は、ほとんどの場合が権利濫用とはならず、有効に認められる
- 配置転換を拒否した従業員に対しては、懲戒解雇という重い処分を下すことができる。ただし、懲戒解雇をする前に、きちんと話し合いの場を設けるなどして、説明責任を果たさなければならない











