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契約書

企業が個人と業務委託契約書を締結する際に注意すべき3つのポイント

2020.01.162020.01.16
企業が個人と業務委託契約書を締結する際に注意すべき3つのポイント
この記事の目次

    はじめに

    「働き方改革」によって、個人の働き方は急速に多様化し、副業やフリーランスで働くことが選択肢となり得る社会となりました。それに伴い、企業としても、直接雇用するのではなく、優秀で専門的なスキルをもつ外部の個人(個人事業主)に業務を委託することが一般的になってきています。 もっとも、個人への業務委託を、企業に対する業務委託と同じだと思っていませんか。 違いを知りもせず、個人への業務委託のメリットばかりに目を向けていると、知らないうちに法律に違反してしまっている可能性も…… そこで今回は、個人に業務を委託することのメリットや、個人と業務委託契約書を締結するにあたって企業が注意すべき点などについて弁護士が詳しく解説します。

    この記事を書いた人

    勝部 泰之勝部 泰之弁護士
    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。
    一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科に在籍中。主な興味分野は経営学、高次元統計、自然言語処理、ゲーム理論、金融アルゴリズム、ブロックチェーン。
    研究リポジトリはこちら↗

    1 個人(個人事業主)に仕事を任せるメリット

    個人(個人事業主)に仕事を任せるメリット   まず、自社の社員に仕事を任せる代わりに、外部の個人(個人事業主)に任せることにはどのようなメリットがあるのかについて考えてみましょう。 外部の個人に仕事を任せる場合には、大きく分けて次の2つのメリットがあると考えられます。
    1. 生産性の向上
    2. 経費の削減

    (1)生産性の向上

    労働人口の減少が深刻化する中で、限られた自社の社員を企業活動の中心となるコア業務に専念させて、それ以外の業務をアウトソーシングすることによって、社内の人材を有効活用できます。 例えば、それによって社員が新しい企画や業務改善などの、より創造的な業務に時間を使うことができれば、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。

    (2)経費の削減

    自社の社員を育成するには時間とコストがかかりますし、当然そのために人的リソースを割かれます。コア業務以外のスキルが必要な業務や、専門的な業務を、外部の専門家に委託することによって、これらの社員育成コストを削減することができます。 また、企業としては、一時的に実施したい業務もあるでしょう。 社員として雇用した人にその業務をやってもらうと、
    • 企業は社員の社会保険などを負担しなければいけない
    • 業務終了後も雇用関係は継続するため、次に何の業務をさせるのか
    といったことが問題になります。 一方で、業務委託であれば、従業員ではないため、社会保険など負担しなくて済みますし、必要なときだけ、業務をお願いすることができるため、経費を削減することが期待できます。

    2 個人に業務を任せる際の注意ポイント

    個人に業務を任せる際の注意ポイント このように、自社内で行ってきた業務の一部を外部に任せることは、企業にとってはメリットが多いのです。 その一方で、
    • 企業が社会保険などの負担を減らしたり、労働法令のルールを守ったりしなくていいように、雇用ではなく業務委託で業務をやらせるケース
    • 企業対個人のように力関係に差がある場合に、立場の弱い者に無理難題や不利益を強要するというケース
    が発生するようになってしまいました。 そのため、これらのケースが発生しないように、法律でルールが定められています。 具体的に、企業が個人に業務を任せる際に注意すべきは、
    1. 偽装請負
    2. 下請法違反
    とならないようにすることです。 それぞれのルールについては、以降の項目で詳しく説明します。

    3 偽装請負

    偽装請負

    (1)偽装請負とは

    「偽装請負」とは、実質的に雇用関係にあるにもかかわらず、企業が社会保険の負担や労働法令のルールを回避するために、業務委託の形式で仕事をさせることをいいます。 企業に雇用される労働者は、労働時間、賃金、解雇、労働保険などの面で保護されています。そのために、企業側は雇用することで様々な義務を負い、また多くのコストが発生します。つまり、企業にとっては、「雇用」するよりも「業務委託」という形をとった方が、ルール面、コスト面でなにかと都合がよいのです。 そのため、実態は労働契約を結んだ労働者と変わらないにもかかわらず、表向きは個人事業主との「業務委託契約」という形にすることによって、本来ならば企業が負うべきコストや義務を回避しようとするケースがあります。このような法規制逃れは「偽装請負」として取り締まりの対象となっています。 たとえ契約書の表題が「業務委託契約書(請負契約書、業務請負契約書etc)」であったとしても、関係ありません。 その契約内容や業務の実態によっては「偽装請負」であると判断されて処罰の対象になってしまう可能性があります。 そのため、「偽装請負」とはならないように、偽装請負と判断される基準を知る必要があります。

    (2)偽装請負の基準

    よく「偽装請負」であれば、労働者派遣の問題だと思われる方がいます。 例えば、労働者派遣が問題となる偽装請負の典型例は、企業Aに雇用されたエンジニアが企業Bの事務所に業務委託で仕事をしに行っているのに、そのエンジニアが企業Bの指揮命令を受けている場合です。本来、エンジニアが企業Bから指揮命令を受けながら仕事をしたいのであれば、企業Aは厳しい派遣法のルールを守りながら労働者派遣としてやらなければいけないのに、派遣の規制を回避するために業務委託で行っている点で偽装請負となるのです。 他方、今回問題になっているのは、企業が個人に対して業務を委託する場合です。労働者派遣が問題となる場合と異なり、派遣のルールを破っていないかが問題となるのではなく、企業が本来雇用しなければいけないのに雇用せずに働かせていないか、つまり労働法令のルールを破っていないかが問題となるのです。 労働者派遣の場合と、企業が個人に対して業務を委託する場合とで、偽装請負と判断される基準は違う点に注意が必要です。 企業が個人に対して業務を委託する場合に偽装請負となるかどうかは、業務を依頼される個人が、企業との関係で「労働者」といえるかどうかがポイントです。「労働者」といえるかどうかは、以下に基づいて判断されます。
    1. 指揮監督下で働いているか
    2. 労務に対して報酬が払われているか
    3. その他諸要素
    労働者といえるかどうかは、契約の内容だけではなく、実際に現場でどのような運用がされているのか(業務の実態)を上で示した基準にあてはめて判断されます。それぞれの詳細について個別に確認していきましょう。

    ①指揮監督下で働いているか

    「指揮監督下で働いているか」については、以下がポイントです。以下の項目に対して、Noが増えれば増えるほど、「指揮監督下で働いている」と判断される可能性が高くなります。
    • 個人が企業からの仕事の依頼や業務指示を承諾するか断るか選択することができる
    • 個人が業務を遂行するにあたって、企業から通常の仕事の依頼の範囲を超える程度の具体的な指示や命令がない
    • 作業がその時間、その場所でしかできない場合を除いて、企業によって個人の勤務時間の管理や作業場所が管理されていない
    • 委託された個人に代わって他の者でも業務を遂行することが認められていたり、作業補助者のを使うことができたりする

    ②労務に対して報酬が払われているか

    「労務に対して報酬が払われているか」については、
    • 個人に対する報酬が時間給を基礎としている
    • 欠勤した場合には、報酬が減額される
    • 残業した場合には手当が支給される
    など、個人が企業の指揮監督下で一定時間労務を提供した対価として報酬が支払われているといえる場合には、この条件を満たす可能性が高くなります。

    ③その他諸要素

    また、これらに加えて、以下の要素も判断材料となっています。
    • 作業に必要な機械、器具を企業ではなく個人が負担している
    • 雇用されている従業員よりも報酬額が高い
    • 個人が他の企業からの業務も自由に受注してよい
    これらの要素があれば、個人が企業との関係で「労働者」であることを否定する方向に働きます。

    (3)偽装請負のペナルティ

    契約の内容や、その実態の双方から個人が企業との関係で「労働者」であると認められ、「偽装請負」であると判断されてしまった場合、企業は、
    • 個人が望めば雇用しなければいけない
    • 業務上の事故やケガが発生した場合には、労働災害として保証しなければいけない
    • 偽装請負をしていたことによる信用の低下という社会的制裁
    というリスクを背負うことになります。 特に、「信用」は一度失うと取り戻すことが難しく、金銭で解決できない問題です。 企業としては、個人との関係で偽装請負にならないようにすることが大切です。 では、偽装請負とならないようにするためには、何に注意しなければいけないのでしょうか。

    (4)偽装請負とならないようにするためには

    ここまで解説してきたように、個人に業務を委託するときには、「偽装請負」とならないように気を付けなければいけません。 繰り返しとなりますが、偽装請負にあたるかどうかは契約内容・業務の実態から判断されます。 そのため、経営層や法務など社内の一部の人が知識を持っていても、個人と直接やり取りをしたり、指示を出したりする従業員に、その知識がなければ防ぐことはできません。 以上から、企業が個人との関係で偽装請負とならないようにできることは、
    1. 偽装請負となる基準を理解する(従業員に理解させる)
    2. 基準に照らして偽装請負と判断され得る約束を個人としない
    3. 従業員に偽装請負と捉えられる行為をさせない
    といったことです。 もっとも、偽装請負となるかどうかの判断は、様々な要素から総合的に見て判断されるものであり、その業種、業務内容、個別の事情などによっても変わるものです。どうしても判断できない場合や不安な場合は、弁護士などの専門家に相談するのも一つの手です。 これまで、偽装請負について見てきました。もっとも、企業が個人に業務を委託する場合には、偽装請負に加えてもう一つ注意しなければいけない「下請法」というものがあります。

    4 下請法

    下請法 「下請法」とは、正式には「下請代金支払遅延等防止法」といい、その名前のとおり、親事業者(=発注者)の下請事業者(=請負人)に対する支払が遅延すること等を防ぎ、立場の弱い下請事業者の利益を守るために定められた法律です。 企業が個人に業務を委託する場合には、企業が親事業者、個人が下請事業者となる可能性があります。まずは、どのような企業が下請法の対象となるかを見ていきましょう。

    (1)下請法の対象となる企業とは

    下請法は、全ての取引に適用されるわけではありません。
    1. 取引当事者の資本金(または出資金の総額)の区分
    2. 取引の内容
    の条件をみたした取引(下請取引)に対して適用されます。 そのため、下請法の対象となるのは、下請取引を行う企業となります。 「①取引当事者の資本金」とある通り、本来であれば、自社と取引相手の資本金の両方を確認して、下請法の対象となるか確認する必要があります。 もっとも、個人(個人事業主)に業務を委託する場合、会社に比べて個人の方が立場が弱いことが明確なため、取引相手である個人の資本金は問題にならず、自社の資本金が1000万円を超える場合には、資本金の区分の条件を満たしたことになります。 そして、下請法の規制対象となる「②取引の内容」は、大きく分けると以下の4つの取引です。
    1. 製造委託
    2. 修理委託
    3. 情報成果物作成委託
    4. 役務提供委託

    ①製造委託

    「製造委託」とは、物品を販売し、または製造を請け負っている企業が、物品の製造・加工などを外部に委託することをいいます。家屋などの建築物は対象に含まれません。

    ②修理委託

    「修理委託」とは、物品の修理を請け負っている企業が、その修理業務を外部に委託することをいいます。また、自社で使用する物品の修理の一部を他の事業者に委託することも含まれます。

    ③情報成果物作成委託

    ここでいう「情報成果物」とは、プログラムや映像・音声などから構成されるもの、文字・図形・記号などから構成されるものをいいいます。 例えば、映画・放送番組などの映像コンテンツや広告、ポスターなどのデザインは情報成果物にあたることになります。 そして、「情報成果物作成委託」とは、情報成果物の提供や作成を行う企業が、外部にその作成作業を委託することをいいます。

    ④役務提供委託

    「役務提供委託」とは、各種サービスの提供を行う事業者が、請け負った業務を外部に委託することをいいます。 例えば、運送やビルメンテナンスなどの業務を請け負った企業が、別会社や個人にその運送業務やビルメンテナンス業務を委託した場合には、役務提供委託に該当することになります。 以上のように、個人との関係でいえば、資本金1000万円超えの企業が下請法の適用対象となるこれら4つの取引を行う場合には、下請取引として下請法の適用を受けるのです。

    (2)下請法の禁止行為と義務

    企業が個人に仕事を発注するときは、力関係に大きな差があります。もし親事業者が、個人にとって不利な要求を押し付けてきたとしても、個人である下請事業者がそれを拒むことが難しい、ということは想像しやすいのではないでしょうか。 下請法では、そのように親事業者が優位な立場を利用して、個人にとって不利益な取引を押し付けることなどがないように、いわゆる「買いたたき」をはじめとして、多くの禁止行為と義務が定められています。 企業は、この下請法における禁止行為と義務について、まずは正しく理解して、公正な取引をしなければいけません。

    ①親事業者の禁止行為

    下請法では、親事業者による以下の行為が禁止されています。
    • 「買いたたき」(通常より著しく低い額を不当に定めること)
    • 発注時に定められた下請代金の減額
    • 下請代金の支払遅延
    • 発注した物品等の受領拒否(正当な理由のない納期の延長を含む)
    • 発注した物品等の不当返品
    • 物の購入強制・役務の利用強制
    • 有償支給原材料等の対価の早期決済
    • 下請代金の支払としての割引困難な手形の交付
    • 不当な経済上の利益の提供要請
    • 不当な発注内容の変更、取り消し、やり直し
    • これらの禁止行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことへの報復措置
    これらの禁止行為は、たとえ相手と合意していたとしても、親事業者がそれを違法と認識していなくても、下請法違反となりますので、注意が必要です。

    ②支払期日を定める義務

    親事業者は、下請代金の支払期日を定めなければいけません。もちろん、この支払期日は、親事業者が勝手に決めていいものではなく、下請事業者との合意の下で定めなければいけません。 この支払期日は、発注した物品等を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で定める義務があります。 この支払期日を定めなかったときは、「支払期日=物品等を実際に受領した日」、となります。また、当事者間で合意して定めた支払期日が、受領した日から60日を超えていた場合には、「支払期日=受領した日から起算して60日を経過した日の前日」となります。 例えば、支払いサイトを末締め翌々月末日としていた場合、支払期日は60日を過ぎてしまうため、注意してください。

    ③遅延利息の支払義務

    親事業者が②で定めた支払期日までに下請代金を支払わなかったときは、受領した日から起算して60日を経過した日から、実際に支払う日までの期間について、年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります。 民法など他の法律では遅延利息としてより低い年率が定められているものがあるのですが、この場合の年率14.6%という遅延利息については、他の法律や、当事者間で合意してより低い利率を定めていたとしても、それらに優先して適用されます。 つまり、下請代金の支払が遅れたときには、一般的な支払の遅れよりも厳しいペナルティが科されているのです。

    ④書面の交付義務

    仕事上のやりとりにおいて口約束はトラブルの元、ということは、経験上ご存じの方も多いことでしょう。 そこで、下請法では、親事業者に対して、書面を下請事業者に交付するということを義務付けています。書面に記載すべき事項については、法令で定められています。親事業者は、発注したら直ちにこの書面を交付しなければならず、この規定に違反したときは後述するペナルティを科されることになります。 発注書面に記載すべき事項は、次のとおりです。
    • 親事業者及び下請事業者の名称
    • 委託をした日
    • 下請事業者の給付の内容
    • 下請事業者の給付を受領する期日
    • 下請事業者の給付を受領する場所
    • 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は、検査を完了する期日
    • 下請代金の額またはその算定方法
    • 下請代金の支払期日
    • 手形を交付する場合は、手形の金額、手形の満期
    • 一括で支払う場合は、金融機関名、金額、親事業者が金融機関へ支払う期日
    • 電子記録債権(*)で支払う場合は、電子記録債権の額、電子記録債権の満期日
    • 原材料等を有償支給する場合は、品名、数量、対価、引渡しの期日、決済期日、決済方法
    • (*)手形や売掛債権を電子化したもの
    書面の様式は指定されていません。そのため、記載事項が網羅されていれば、発注書や契約書でもかまいません。 もっとも、これらの事項は、原則として該当するものすべてを決定した上で記載しなければいけないことに注意してください。

    ⑤取引記録に関する書類の作成・保存義務

    さらに、親事業者には、取引に関する記録を書類として作成して、2年間保存することが義務付けられています。これは、親事業者への注意喚起と、公正取引委員会や中小企業庁による迅速・正確な調査や検査のためのものです。この規定に違反したときにも、後述するペナルティを科されることになります。 この書類に記載すべき事項は、次のとおりです。
    • 下請事業者の名称
    • 委託をした日
    • 下請事業者の給付の内容
    • 下請事業者の給付を受領する期日
    • 下請事業者から受領した給付の内容、給付を受領した日
    • 下請事業者の給付の内容について検査をした場合は、検査を完了した日、検査の結果、検査に合格しなかった給付の取扱い
    • 下請事業者の給付の内容について変更またはやり直しをさせた場合は、内容、理由
    • 下請代金の額またはその算定方法
    • 下請代金の支払期日
    • 下請代金の額に変更があった場合は、増減額、理由
    • 支払った下請代金の額、支払った日、支払手段
    • 下請代金の支払につき手形を交付した場合は、手形の金額、手形を交付した日、手形の満期
    • 一括で支払う場合は、金融機関から貸付けまたは支払を受けることができることとした額、期間の始期、親事業者が金融機関へ支払った日
    • 電子記録債権で支払う場合は、電子記録債権の額、下請事業者が下請代金の支払を受けることができることとした期間の始期、電子記録債権の満期日
    • 原材料等を有償支給した場合は、品名、数量、対価、引渡しの日、決済をした日、決済方法
    • 下請代金の一部を支払いまたは原材料等の対価を控除した場合は、その後の下請代金の残額
    • 遅延利息を支払った場合は、遅延利息の額、遅延利息を支払った日

    (3)下請法違反のペナルティ

    それでは、下請法に違反したときには、親事業者にはどのようなペナルティが課されることになるのでしょうか。 下請取引が公正に行われているかどうかは、公正取引委員会と中小企業庁によって厳しく取締が行われています。下請事業者からの通報により、取引記録の調査や立入検査が行われることもあります。 下請法違反が認められた場合には、親事業者は、下請事業者の求めに応じて減額してしまった分や遅延利息の支払をしなければいけません。。 また、公正取引委員会から再発防止のための措置を講じるよう、指導・勧告などが行われます。勧告された内容は、公正取引委員会のWebサイトで公表されます。 また、(2)の④発注書面を交付する義務と⑤取引記録に関する書類の作成・保存義務を守らなかった場合には、最大50万円の罰金が科せられる可能性があります。 企業のコンプライアンス(法令遵守)がますます重視されてきている中、「下請いじめ」「ブラック」というレッテルを貼られてしまうことは、社会的な信用低下につながり、自社の企業価値を大きく損ないかねないため、注意が必要です。

    (4)下請法違反とならないようにするためには

    上述したとおり、下請法違反は厳しく取り締まられ、違反したときのペナルティーは単なる金銭的損失にとどまらず、社会的な信用を失う可能性もあります。個人に業務を委託するときには、この下請法に違反しないように気を付けなければいけません。 下請法の適用対象となる企業が、この下請法の適用そのものを回避するスキームはありません。下請法により定められている禁止行為や4つの義務(代金支払期日の定め、遅延利息の支払、書面交付、書類の作成・保存)について正しく理解した上で、契約内容や取引内容についてチェックし、「下請けいじめ」とならない適正な取引を行うことが重要となります。

    5 契約書の注意点

    契約書の注意点 ここまで、個人に仕事を任せるときに注意すべき点について解説してきました。これらの点を踏まえた上で、実際に契約書を作るときに注意すべき点について解説していきます。

    (1)契約書で明確にしておくべき事項

    個人と「業務委託契約」を結んで仕事を任せるときには、まず書面で「業務委託契約書」を作成しましょう。 口頭でも契約そのものは成立するのですが、たとえ信頼関係があったとしても、会社側が委託する業務の内容が正確に相手に伝わっておらず、トラブルになるケースが多いです。のちのトラブルを予防するためにも、あらかじめ書面で契約書を作成して、お互いに委託する業務内容を確認してから契約を結びましょう。 個人に仕事を頼みたいと考えるときは、1回限りのものよりも、その後継続して仕事を頼みたいと考えるケースが多いかと思います。その場合は、依頼ごとに契約書を作るのが面倒と思うかもしれません。 このような場合には、「業務委託基本契約書」を作成して、すべての業務委託取引に共通する基本的な取り決めを定めておき、個別の委託についてはこの「業務委託基本契約書」に基づいて注文書と請書を取り交わすなどして個別の契約を成立させるという方法もあります。 業務委託契約書の基本的な記載事項には以下の2つがあります。

    ①委託業務の内容

    委託する業務の範囲が不明確だと、成果物が不完全であったり、必要以上の仕事分について報酬を請求されるなどのトラブルになる可能性があります。業務の内容と、その範囲については契約書の中で明確にしておく必要があります。

    ②報酬と支払方法

    報酬の定め方としては、報酬額を定める方法と、報酬額の算定方法を定める方法の2つがあります。報酬額を「金100万円」のように金額で定める方法と、「1時間あたり金1万円」(タイムチャージ方式)や、「総売上額の30%相当額」(レベニューシェア方式)などの方式がありますが、この場合にも時間の算定方法や、何をもって総売上額とするのかなどの詳細についても記載しておくとよいでしょう。

    ③その他定めるべき事項

    他にも、契約書に定めておくべき事項としては、以下のものが挙げられます。
    • 成果物の納入場所と方法
    • 納入後の成果物に不備があった場合の対応や損害賠償について
    • 秘密情報の管理義務
    • 業務が適切に遂行されない場合の対応や損害賠償について

    (2)知的財産権が誰のものになるか

    「知的財産」とは、人の知的活動によって生み出された創作物などで、財産的な価値を持つものの総称です。その中でも法律で規定された特許権、実用新案権、意匠権、著作権などの総称を「知的財産権」といいます。 委託する業務によっては「成果物」を伴うことがあります。その「成果物」に「知的財産権」が生じることが想定されるときには、「業務委託契約書」に、その知的財産権の帰属等について明確にしておくことが重要になります。 例えば、個人であるデザイナーに、ロゴの作成を委託したとします。特に何も取り決めをしなかった場合は、そのロゴの著作権は作成した個人に帰属します。そのため、発注した会社が無断でそのロゴを使用したり、加工したりということができなくなってしまいます。このロゴの著作権が会社に移転することを契約書で明確にしておくことによって、会社はその後その後ロゴを自由に使用・加工できるようになります。 この例ではわかりやすくするために簡略に述べましたが、実際には、知的財産権にもさまざまな種類があり、それぞれ契約書に明記しておくべき事項も違うため、注意が必要です。

    (3)下請法の義務

    下請法が適用される場合、4の(2)で解説したように、親事業者には定められた書面の作成・交付・保存の義務があります。 そのため、作成する「業務委託契約書」に必要事項を記載する場合には、 適切に個人に契約書を交付するとともに、保管しておかなければいけません。 は、親事業者に課される義務に適したものでなければいけません。 なお、契約書の締結の時点では必要事項を記載できない項目がある場合、あとから別の書面で補足することがあります。このように「業務委託契約書」とは別に補足する書面を作成した場合には、補足した書面についても交付・保存しておく必要がある点に注意してください。

    6 小括

    小括 企業が個人に業務を委託することによって生産性向上や経費節減が期待できます。 もっとも、企業に業務を委託するときと同じだと考えてはいけません。特に注意しなければいけない点が2つあります。 1つは、契約内容と業務実態の両方から「偽装請負」にならないようにしなければいけません。もう1つは、下請法が適用される場合には、下請法で定められたルールを守り、禁止行為をせず、4つの義務を守らなければいけません。 そのため、業務委託契約書を作成するときにも、この2点に配慮した内容の契約書となるようにしましょう。

    7 まとめ

    これまでの解説をまとめると、以下の通りです。
    • 個人(個人事業主)に業務委託することで、生産性の向上と経費の削減が期待できる
    • 企業が個人に業務を委託するときは、①偽装請負、②下請法違反とならないようにしなければいけない
    • 「偽装請負」とは、実質的に雇用関係にあるにもかかわらず、企業が社会保険の負担や労働法令のルールを回避するために、業務委託の形式で仕事をさせることをいう
    • 個人が、企業との関係で「労働者」といえるかどうかが「偽装請負」の判断基準となる
    • 「労働者」といえるかどうかの具体的な判断基準は、①指揮監督下で働いているか、②労務に対して報酬が支払われているか、③その他諸要素であり、契約内容と業務実態の両方から判断される
    • 個人への業務委託が下請法が適用される下請取引に該当するときは、下請法に定められたルールに違反しないように注意する必要がある
    • 親事業者は、その立場の優位性を利用して下請法に定められた禁止行為をしてはいけない
    • 下請法は、親事業者に対して、①支払期日を定める義務、②遅延利息の支払義務、③発注書面の交付義務、④取引記録に関する書類の作成・保管義務、といった義務を定めている
    • 個人と「業務委託契約」を結ぶときは契約書を作成して、①委託業務の内容、②報酬と支払方法、③その他定めるべき事項、について明確にする
    • 委託する業務が「成果物」を伴うときには、「業務委託契約書」に知的財産権の帰属について明確に記載する
    • 下請法が適用されるときは、親事業者に課せられているルールに即した「業務委託契約書」を作成・交付・保存する必要がある
    AUTHOR
    勝部 泰之

    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。 一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(M1・清水研究室)。

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