「不当廉売」の判断基準は?5つの事例を使って弁護士が詳しく解説!
2020.09.30

この記事の目次
はじめに
セールやキャンペーンを企画する場合、対象商品の価格をいくらにするかといった悩みを持ったことがあるという事業者の方もいらっしゃると思います。 価格をできるだけ抑えた方が、自社製品のアピールになるだろうと考える事業者の方も少なくないでしょう。 ですが、採算度外視ともいえるような低価格で販売すると、場合によっては、独占禁止法が禁止する「不当廉売」にあたり、罰則を科される可能性があります。 そこで今回は、実際の事例を使いながら、どのような場合に「不当廉売」にあたる(あたらない)のか、を中心に弁護士が詳しく解説します。1 不当廉売とは
「不当廉売(ダンピング)」とは、正当な理由なく、商品・サービスを不当に安い価格で継続して提供し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものをいいます。
独占禁止法では、この不当廉売を「不公正な取引方法」の1つとして規制しています。
商品・サービスの価格変動の要因の一つに、事業者間の競争があります。
他社との競争により、事業者は、いかにして価格を抑え、そして、いかにして商品・サービスの質を上げるかといったことを試行錯誤します。
公正な競争を確保することにより、健全性のある経済発展が期待できるのです。
このように、独占禁止法では、経済を健全に発達させるために、事業者による公正で自由な競争が促進される必要があるという考えのもとに、競争を妨げる不公正な取引を禁止しています。
たとえば、競争や企業努力によって効率性が向上すると、提供する商品・サービスを低価格に抑えることができます。
ですが、単に採算を度外視した価格で顧客を獲得しようとする行為は、他の事業者による事業活動を困難にするおそれがあるため、規制することが必要になってきます。
2 不当廉売となってしまう条件
独占禁止法は、先に見たとおり、「公正な競争」を確保することを目的としています。
そのため、提供する商品・サービスが「低価格」というだけでは、その価格が「不当」であるということにはなりません。
あくまで、事業者の事業活動を困難にさせ、ひいては、「公正な競争」を害するおそれのあるものが、不当廉売として規制されることになります。
以下では、不当廉売にあたる条件と、例外的に不当廉売にあたらないケースについて見ていきたいと思います。
(1)不当廉売の3つの条件
次の3つの条件をすべて満たす場合、不当廉売にあたる可能性があります。- 供給にかかった費用よりも著しく安い価格で継続して提供すること
- 他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること
- 正当な理由がないこと
(2)不当廉売にあたらないケース
原価を下回る価格での提供は「不当廉売」にあたる可能性がありますが、原価を下回る価格で提供されていても、不当廉売にあたらないと判断されることがあります。 たとえば、以下のようなケースが挙げられます。- 季節遅れ・流行遅れの商品のバーゲンセール
- 生鮮食品や使用期限のある商品を見切り品として販売するケース
- キズ物、半端物などの商品を相当の低い値で販売するケース
3 不当廉売に関する事例
まずは、「不当廉売」にあたるおそれがあると判断された事例として、以下の2つの事例を見ていきましょう。
(1)事例①:食品スーパー2社が野菜を廉売した事例
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- A社は、食品スーパーAを出店していたところ、B社が同市に食品スーパーBを出店したことを契機に、消費者の購買頻度が高いキャベツなどの価格を相互に下げあった。
- その結果、両スーパーはキャベツなどを1円で販売し、野菜の販売数量を大きく伸ばした。
(2)事例②:石油製品小売業者2社がガソリンを廉売した事例
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- A社運営のガソリンスタンドが開店したことを契機に、その近くにあるB社運営のガソリンスタンドとの間で安売り競争が過熱した。
- その結果、周辺のガソリンスタンドの営業を困難にさせるおそれが生じた。
4 不当廉売とならない事例
先に見たように、安く売っていることだけをもって「不当廉売」にあたるということまではいえません。
以下では、原価を下回る価格で販売されてはいるものの、不当廉売にはあたらないとされた事例について見ていきましょう。
(1)事例①:大量の在庫品の原価割れ販売
- 小売業者Aが、需要の見込み違いにより大量に在庫化した商品を仕入原価を下回る価格で販売することが、不当廉売にあたらないと回答した事例
- 商品は、季節や天候などにより需要が変動する商品で、年によっては前年よりも大幅に需要が増えることがある
- 小売業者Aは、多くの種類の商品を販売する業者であり、売上高全体のうち本件商品の売上高の割合はごくわずかである
- 過去に、気温などに起因して、本件商品の需要が大きく伸び、極端に品薄になったことがあった
- 来年の需要期には本件商品の使用期限が過ぎてしまい、使用期限内に在庫を販売できる見込みがないうえ、保管に多額の費用がかかっている
- 本件商品の在庫を多く抱えている他の事業者が、小売業者Aが考えている価格と同程度の価格で販売し始めている
- 使用期限のある商品の在庫を大量に抱えている事業者が多く、同程度の価格で販売する事業者が多く出てきている
- 通常の販売方法では使用期限内に販売できる見込みがなく、経営判断上やむを得ない
(2)事例②:映像機器の廉売による販売促進キャンペーン
- 映像機器メーカーB社が、販売促進キャンペーンのため、期間と台数を限定して通常の10分の1の価格で映像機器Cを販売することは、直ちに不当廉売にあたるものではないと回答した事例
- A社は、フィルムを用いて映像を記録する映像機器Cのメーカーであり、競争事業者が5社あるなか、映像機器Cの販売市場におけるシェアは10%(第5位)である
- 販売促進キャンペーンとして、通常100万円で販売している映像機器C(販売原価60万円)を、3ヶ月間に限り100台を上限として、10万円で販売することを企画している
- 映像機器Cで用いるフィルムは、A社の専用フィルムに限られており、A社は専用フィルムを継続的に売り上げることで、映像機器Cの費用を4年で回収できる
(3)事例③:セキュリティソフトの販売開始の際に行う無料配布キャンペーン
- ソフトウェアメーカーD社がセキュリティソフトを新規に販売するにあたって、10万本を無料で配布することは、直ちに不当廉売にあたるものではないと回答した事例
- セキュリティソフトは、その性質上、販売価格が安ければ売れるというものではないため、知名度の高い事業者が有利であり、上位2社で約80%のシェアを占めている
- D社は、セキュリティソフトの販売を開始するに先立ち、製品の知名度を上げるために10万本を無料で提供することを企画している
- ユーザーは、セキュリティソフトをダウンロードする際に、D社とライセンス契約を締結し、1年ごとの契約更新時に更新料を支払う
5 不当廉売に対する罰則
不当廉売の事実が疑われる場合、公正取引委員会は審査(調査)を開始します。
調査の結果、不当廉売が認められた場合、その事業者は公正取引委員会から「排除措置命令」を受ける可能性があります。
「排除措置命令」とは、事業者に対し、違反行為を排除するなどの措置を採るように命じることをいいます。
また、不当廉売を行った事業者が、調査開始日から遡って10年の間に「排除措置命令」もしくは「課徴金納付命令」を受けたことがある場合には、必ず課徴金納付命令が出されることになっています。
ここでいう「課徴金」の額は、不当廉売を行った期間(最大3年間)の売上額に対して3%を乗じて算出した額になります。
事業者は、このようにして算出された課徴金を国庫に納付しなければなりません。
事業者が、公正取引委員会による排除措置命令に従わない場合、
- 最大2年の懲役
- 最大300万円の罰金
- 最大3億円の罰金
6 小括
「不当廉売」は、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるため、独占禁止法で「不公正な取引方法」の1つとして規制されています。
もっとも、単に安いというだけで、直ちに不当廉売にあたるということではありません。不当廉売にあたるかどうかは、その理由や目的、期間、そして、市場や他の事業者への影響など、個別の事案ごとに判断されるものです。
セールやキャンペーンなどを企画する場合には、今回見てきたような事例などを中心に、どのような場合に不当廉売にあたる(あたらない)のか、そして、その場合、どのような事実を基に不当廉売の該当性が判断されているのか、などを十分に理解しておくことが必要です。
7 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下の通りです。- 「不当廉売」とは、正当な理由なく、商品・サービスを不当に安い価格で継続して販売し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものをいう
- 不当廉売は、「不公正な取引方法」の1つとして、独占禁止法で規制されている
- ①商習慣上妥当と認められるとき、②期間や対象商品が限定されているとき、③公正な競争への影響が小さいときは不当廉売にあたらないことがある
- 不当廉売を行った事業者には、排除措置命令や課徴金納付命令が出されることがある
- 排除措置命令に従わなかった場合、①最大2年の懲役、②最大300万円の罰金のいずれかを科される可能性がある
- 排除措置命令に従わなかった法人は、最大3億円の罰金を科される可能性がある











