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企業法務

「不当廉売」の判断基準は?5つの事例を使って弁護士が詳しく解説!

2020.09.302025.11.27
不当廉売
この記事の目次

    はじめに

    セールやキャンペーンを企画する場合、対象商品の価格をいくらにするかといった悩みを持ったことがあるという事業者の方もいらっしゃると思います。 価格をできるだけ抑えた方が、自社製品のアピールになるだろうと考える事業者の方も少なくないでしょう。 ですが、採算度外視ともいえるような低価格で販売すると、場合によっては、独占禁止法が禁止する「不当廉売」にあたり、罰則を科される可能性があります。 そこで今回は、実際の事例を使いながら、どのような場合に「不当廉売」にあたる(あたらない)のか、を中心に弁護士が詳しく解説します。

    この記事を書いた人

    勝部 泰之勝部 泰之弁護士
    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。
    一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科に在籍中。主な興味分野は経営学、高次元統計、自然言語処理、ゲーム理論、金融アルゴリズム、ブロックチェーン。
    研究リポジトリはこちら↗

    1 不当廉売とは

    不当廉売 「不当廉売(ダンピング)」とは、正当な理由なく、商品・サービスを不当に安い価格で継続して提供し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものをいいます。 独占禁止法では、この不当廉売を「不公正な取引方法」の1つとして規制しています。 商品・サービスの価格変動の要因の一つに、事業者間の競争があります。 他社との競争により、事業者は、いかにして価格を抑え、そして、いかにして商品・サービスの質を上げるかといったことを試行錯誤します。 公正な競争を確保することにより、健全性のある経済発展が期待できるのです。 このように、独占禁止法では、経済を健全に発達させるために、事業者による公正で自由な競争が促進される必要があるという考えのもとに、競争を妨げる不公正な取引を禁止しています。 たとえば、競争や企業努力によって効率性が向上すると、提供する商品・サービスを低価格に抑えることができます。 ですが、単に採算を度外視した価格で顧客を獲得しようとする行為は、他の事業者による事業活動を困難にするおそれがあるため、規制することが必要になってきます。

    2 不当廉売となってしまう条件

    条件 独占禁止法は、先に見たとおり、「公正な競争」を確保することを目的としています。 そのため、提供する商品・サービスが「低価格」というだけでは、その価格が「不当」であるということにはなりません。 あくまで、事業者の事業活動を困難にさせ、ひいては、「公正な競争」を害するおそれのあるものが、不当廉売として規制されることになります。 以下では、不当廉売にあたる条件と、例外的に不当廉売にあたらないケースについて見ていきたいと思います。

    (1)不当廉売の3つの条件

    次の3つの条件をすべて満たす場合、不当廉売にあたる可能性があります。
    1. 供給にかかった費用よりも著しく安い価格で継続して提供すること
    2. 他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること
    3. 正当な理由がないこと
    ここでいう「供給にかかった費用」とは、対象となる商品・サービスを提供するまでにかかったすべての費用(総販売原価)のことをいいます。 具体的には、仕入れに関してかかった費用(輸送費など)、提供に関してかかった費用(人件費など)などが供給にかかった費用にあたります。 提供価格がこの総販売原価を下回る(条件1)と不当廉売にあたる可能性が出てきます。 また、不当廉売にあたるためには、相当期間にわたり廉売を繰り返すことが必要です。 もっとも、毎日継続することは必要でなく、毎週1日にかぎり廉売を行う場合であっても、消費者の購買状況などから継続性が認められることもあります。 さらに、廉売を行う事業者の規模や対象商品の特性などから、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあり(条件2)、原材料価格が想定外に高騰するといった正当な理由もなければ(条件3)、不当廉売にあたる可能性があります。 このように、不当廉売にあたるかどうかは、さまざまな事情を考慮して個別の事案ごとに判断されることになります。

    (2)不当廉売にあたらないケース

    原価を下回る価格での提供は「不当廉売」にあたる可能性がありますが、原価を下回る価格で提供されていても、不当廉売にあたらないと判断されることがあります。 たとえば、以下のようなケースが挙げられます。
    • 季節遅れ・流行遅れの商品のバーゲンセール
    • 生鮮食品や使用期限のある商品を見切り品として販売するケース
    • キズ物、半端物などの商品を相当の低い値で販売するケース
    これらのケースは、いずれも商習慣上想定されるケースであるため、不当廉売にあたらないと判断される一つの要素となります。 もっとも、このことに加え、廉売期間や対象となっている商品、公正な競争へ及ぼす影響なども考慮されることになります。 たとえば、廉売行為がある程度長期間にわたっており、かつ、対象となっている商品が限定されていないような場合には、公正な競争へ及ぼす影響が相対的に大きくなるため、不当廉売にあたる可能性も高くなります。 このように、不当廉売にあたるかどうかの判断は、業種に応じた商習慣や市場環境の変化などといったように、多くの要素を基に個別の事案ごとに判断されることになります。

    3 不当廉売に関する事例

    事例 まずは、「不当廉売」にあたるおそれがあると判断された事例として、以下の2つの事例を見ていきましょう。

    (1)事例①:食品スーパー2社が野菜を廉売した事例

      • A社は、食品スーパーAを出店していたところ、B社が同市に食品スーパーBを出店したことを契機に、消費者の購買頻度が高いキャベツなどの価格を相互に下げあった。
     
      その結果、両スーパーはキャベツなどを1円で販売し、野菜の販売数量を大きく伸ばした。
    公正取引委員会は、A社とB社による廉売行為は「不当廉売」にあたるおそれがあるとして、両社に対して、警告を行いました。 この事例において、両社は約1週間にわたりキャベツ等を1円で販売し、野菜の販売数量を大幅に伸ばしました。 この点、「1円」という著しく安い価格で一定期間野菜などを販売し続けると、A社とB社に消費者が集中する反面、両スーパーの周辺に出店する野菜などの販売業者には、消費者がつかなくなるおそれがあります。 また、このような低価格で販売を行うと、市場全体で値崩れが起きる可能性もあり、公正な競争を妨げる要因にもなります。 このように、A社とB社による廉売行為は、著しく安い価格で野菜などを販売することにより、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある行為といえるため、廉売行為にあたる可能性があります。 もっとも、1円という著しく安い価格で野菜などを販売しても、それがキズものであったり、1日限りのものである場合には、不当廉売にあたらない可能性が高いといえます。 ですが、この事例のように、新規出店したスーパーと既存のスーパーとの間で価格の値下げを繰り返し、約1週間にわたり1円という価格で販売し続けるような行為は、周囲のスーパーや八百屋などの事業活動を困難にさせるおそれのある行為であるということがいえます。

    (2)事例②:石油製品小売業者2社がガソリンを廉売した事例

      • A社運営のガソリンスタンドが開店したことを契機に、その近くにあるB社運営のガソリンスタンドとの間で安売り競争が過熱した。
     
      その結果、周辺のガソリンスタンドの営業を困難にさせるおそれが生じた。
    公正取引委員会は、A社とB社による廉売行為は「不当廉売」にあたるおそれがあるとして、両社に対して、警告を行いました。 この事例において、A社は1リットル当たり87円(会員価格)、B社は1リットル当たり85円台(会員価格)という原価割れで、10日間にわたり販売をしました。 周辺のガソリンスタンドでは、1リットル当たり120円程度で販売されていたため、A社とB社に消費者が集中する反面、周辺のガソリンスタンドには消費者がつかなくなるおそれがあり、営業を困難にさせるおそれがあります。 このように、採算度外視ともいえるような販売業者が、意地のぶつかり合いで相互に値下げを続けると、公正な競争を妨げる要因にもなります。 この事例においては、A社が大規模な事業者であるという点にも注目すべきといえます。 多店舗展開を行っている大規模な事業者や一定の商圏において市場シェアの高い事業者などがガソリンを廉売する場合、一般的には周辺の販売業者の事業活動に与える影響は大きいものと考えられます。 そのため、不当廉売にあたるおそれの有無は、販売価格や期間、目的だけでなく、市場や他の事業者に与える影響力の大きさも考慮されるものと考えられます。   以上のように、「不当廉売」にあたるかどうかは、事業者の意図・目的、廉売行為が及ぼす影響、市場全体の状況等を基に個別の事案ごとに判断されます。 廉売行為により、周辺の事業者の事業活動を困難にさせるおそれが生じ、公正な競争を害する場合には、「不当廉売」にあたる可能性があります。

    4 不当廉売とならない事例

    あたらない 先に見たように、安く売っていることだけをもって「不当廉売」にあたるということまではいえません。 以下では、原価を下回る価格で販売されてはいるものの、不当廉売にはあたらないとされた事例について見ていきましょう。

    (1)事例①:大量の在庫品の原価割れ販売

      小売業者Aが、需要の見込み違いにより大量に在庫化した商品を仕入原価を下回る価格で販売することが、不当廉売にあたらないと回答した事例
    この事例には、以下のような背景がありました。
    • 商品は、季節や天候などにより需要が変動する商品で、年によっては前年よりも大幅に需要が増えることがある
    • 小売業者Aは、多くの種類の商品を販売する業者であり、売上高全体のうち本件商品の売上高の割合はごくわずかである
    • 過去に、気温などに起因して、本件商品の需要が大きく伸び、極端に品薄になったことがあった
    • 来年の需要期には本件商品の使用期限が過ぎてしまい、使用期限内に在庫を販売できる見込みがないうえ、保管に多額の費用がかかっている
    • 本件商品の在庫を多く抱えている他の事業者が、小売業者Aが考えている価格と同程度の価格で販売し始めている
    これに対し、公正取引委員会は、以下のように回答しました。 小売業者Aが検討している内容は、需要期である約3ヶ月の間、原価を大きく割る価格で在庫を販売するというものです。そのため、「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」することになります。 ですが、以下の事情があることにより、「正当な理由」があると考えられます。
    • 使用期限のある商品の在庫を大量に抱えている事業者が多く、同程度の価格で販売する事業者が多く出てきている
    • 通常の販売方法では使用期限内に販売できる見込みがなく、経営判断上やむを得ない
    また、小売業者Aの売上高全体のうち本件商品の売上高の割合はごくわずかであることから、Aによる廉売が他の小売業者の事業活動を困難にさせるおそれもほとんどありません。 この事例において、公正取引委員会は、小売業者Aによる在庫の販売が「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」することにあたるとしながらも、小売業者Aが抱える特有の事情を「正当な理由」として認め、不当廉売にあたらないと判断しました。

    (2)事例②:映像機器の廉売による販売促進キャンペーン

      映像機器メーカーB社が、販売促進キャンペーンのため、期間と台数を限定して通常の10分の1の価格で映像機器Cを販売することは、直ちに不当廉売にあたるものではないと回答した事例
    この事例には、以下のような背景がありました。
    • A社は、フィルムを用いて映像を記録する映像機器Cのメーカーであり、競争事業者が5社あるなか、映像機器Cの販売市場におけるシェアは10%(第5位)である
    • 販売促進キャンペーンとして、通常100万円で販売している映像機器C(販売原価60万円)を、3ヶ月間に限り100台を上限として、10万円で販売することを企画している
    • 映像機器Cで用いるフィルムは、A社の専用フィルムに限られており、A社は専用フィルムを継続的に売り上げることで、映像機器Cの費用を4年で回収できる
    これに対し、公正取引委員会は、「供給に要する費用を著しく下回る価格で販売する行為」にあたるかどうかは、価格のみならず、競争への影響や廉売を行う理由などを総合的に考慮したうえで検討されるべきとしています。 また、先に見たように、仮に「供給に要する費用を著しく下回る価格で販売する行為」にあたるとしても、そこに「正当な理由」があれば、不当廉売にはあたりません。 この事例において、映像機器メーカーB社が企画している内容は、3ヶ月に限り、原価を大きく割る価格で映像機器Cを販売するというものです。 そのため、「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」することになります。 もっとも、本件キャンペーンは、期間と販売台数がともに3ヶ月、100台と限られていることから、他の事業者の事業活動に与える影響は限定的であるとして、直ちに不当廉売にあたるものではないという判断がなされました。 この事例についても、事例①と同じように、映像機器メーカーB社による映像機器Cの販売が「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給」することにあたるとしつつも、他の事業者に与える影響が限定的であることを認め、直ちに不当廉売にあたるものではないと判断しました。

    (3)事例③:セキュリティソフトの販売開始の際に行う無料配布キャンペーン

      ソフトウェアメーカーD社がセキュリティソフトを新規に販売するにあたって、10万本を無料で配布することは、直ちに不当廉売にあたるものではないと回答した事例
    この事例には、以下のような背景がありました。
    • セキュリティソフトは、その性質上、販売価格が安ければ売れるというものではないため、知名度の高い事業者が有利であり、上位2社で約80%のシェアを占めている
    • D社は、セキュリティソフトの販売を開始するに先立ち、製品の知名度を上げるために10万本を無料で提供することを企画している
    • ユーザーは、セキュリティソフトをダウンロードする際に、D社とライセンス契約を締結し、1年ごとの契約更新時に更新料を支払う
    ソフトウェア開発にかかる費用は高額になることが一般的ですが、これらの費用を回収する方法は、事業者によってさまざまです。 この点、D社が企画した更新料の徴収による費用の回収は、一定の合理性が認められるため、公正取引委員会は、セキュリティソフトの無料提供が不当廉売にあたるとまではいえないと判断しました。 また、公正取引委員会は、併せて以下のような判断もしています。 D社は、高度寡占市場でもあるセキュリティソフト市場に新規参入する事業者であり、無料提供される製品のシェアは1%にも達しません。 信頼性が重視されるセキュリティソフトは、低価であるからとって必ずしも売れる商品でないことも併せ考えると、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるとは認められず、直ちに不当廉売にあたるものではないと判断しました。   以上に見てきたように、商品などが安く販売されたり、無料提供されるようなケースであっても、個別の事案に見られる背景などを基に、その行為が「不当廉売」にあたるかどうかが判断されるため、その判断が簡単ではないことがわかります。

    5 不当廉売に対する罰則

    罰則 不当廉売の事実が疑われる場合、公正取引委員会は審査(調査)を開始します。 調査の結果、不当廉売が認められた場合、その事業者は公正取引委員会から「排除措置命令」を受ける可能性があります。 「排除措置命令」とは、事業者に対し、違反行為を排除するなどの措置を採るように命じることをいいます。 また、不当廉売を行った事業者が、調査開始日から遡って10年の間に「排除措置命令」もしくは「課徴金納付命令」を受けたことがある場合には、必ず課徴金納付命令が出されることになっています。 ここでいう「課徴金」の額は、不当廉売を行った期間(最大3年間)の売上額に対して3%を乗じて算出した額になります。 事業者は、このようにして算出された課徴金を国庫に納付しなければなりません。 事業者が、公正取引委員会による排除措置命令に従わない場合、
    • 最大2年の懲役
    • 最大300万円の罰金
    のいずれかを科される可能性があります。 また、法人である場合には、違反行為者とは別に、その法人に対しても、
    • 最大3億円の罰金
    が科される可能性があります。 さらに、不当廉売を行ったとして排除措置命令や課徴金納付命令を受けた場合、その事実が社名とともに公正取引委員会のWebサイトにおいて公表されます。事業者にとっては、信頼失墜にもつながるため、注意が必要です。

    6 小括

    小括 「不当廉売」は、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるため、独占禁止法で「不公正な取引方法」の1つとして規制されています。 もっとも、単に安いというだけで、直ちに不当廉売にあたるということではありません。不当廉売にあたるかどうかは、その理由や目的、期間、そして、市場や他の事業者への影響など、個別の事案ごとに判断されるものです。 セールやキャンペーンなどを企画する場合には、今回見てきたような事例などを中心に、どのような場合に不当廉売にあたる(あたらない)のか、そして、その場合、どのような事実を基に不当廉売の該当性が判断されているのか、などを十分に理解しておくことが必要です。

    7 まとめ

    これまでの解説をまとめると、以下の通りです。
    • 「不当廉売」とは、正当な理由なく、商品・サービスを不当に安い価格で継続して販売し、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものをいう
    • 不当廉売は、「不公正な取引方法」の1つとして、独占禁止法で規制されている
    • ①商習慣上妥当と認められるとき、②期間や対象商品が限定されているとき、③公正な競争への影響が小さいときは不当廉売にあたらないことがある
    • 不当廉売を行った事業者には、排除措置命令や課徴金納付命令が出されることがある
    • 排除措置命令に従わなかった場合、①最大2年の懲役、②最大300万円の罰金のいずれかを科される可能性がある
    • 排除措置命令に従わなかった法人は、最大3億円の罰金を科される可能性がある
    AUTHOR
    勝部 泰之

    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。 一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(M1・清水研究室)。

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