資金決済法の「6ヶ月ルール」とは? 前払式支払手段の供託義務を回避するための有効期限設計と利用規約の書き方
2020.02.06

この記事の目次
はじめに
「とりあえず有償ポイントを発行して、6ヶ月の有効期限をつけておけば、 資金決済法の前払式支払手段にならず、供託もいらないんですよね?」 ゲームアプリ、フリマアプリ、EC、SaaSの新料金プランなどを企画していると、 必ずといっていいほど出てくるのが、デポジット・電子マネー・有償ポイントの設計です。 その中でよく話題になるのが、資金決済法に出てくる「6ヶ月」というキーワード。 しかし、条文だけを読んでも、- 6ヶ月の有効期限をつければ、本当に前払式支払手段にならないのか
- 有効期限の起算点は「購入日」か「最終利用日」か
- 自動返金や残高の扱いを、利用規約にどう書けば安全なのか
- 資金決済法における「6ヶ月」の本当の意味
- 6ヶ月の有効期限を設けることで、前払式支払手段・供託義務を回避できるケース/できないケース
- 電子マネー・有償ポイント・デポジットのよくあるNG設計
- 実務で使える「利用規約への書き方」の考え方
【結論】ポイントは次の3つです。
1 「6ヶ月有効ならOK」ではない
6ヶ月というのは、資金決済法上の一定の要件を満たすための一要素にすぎず、
スキーム全体として「前払式支払手段」に当たるかどうかを個別に判断する必要があります。
2 有効期限の「起算点」と「失効後の扱い」が重要
「購入日から6ヶ月」なのか「最後の利用日から6ヶ月」なのか、
失効後に自動返金するのか、単に失効させるのかによって、法的評価とユーザー保護の評価が変わります。
3 「資金決済法」を意識した利用規約を作成する
4 「6ヶ月で逃げ切る設計」はリスクもある
現時点の法令・ガイドラインに基づいて「前払式支払手段に該当しない」と整理できるケースもありますが、
取扱金額が大きくなる場合や、ビジネスモデルが変わる可能性がある場合には、
早めに前払式支払手段としての登録・供託も視野に入れた方が、長期的には安全かつ柔軟です。
1 資金決済法にいう「6ヶ月」とは?
「資金決済法」とは、お金の取り扱いや決済に関するルールを定めた法律ですが、その中に「6ヶ月」という期間が関係する規制が存在します。
それは「前払式支払手段」に関する規制です。
前払式支払手段における「6ヶ月」がどのような意味を持つのかを理解しておくことで、負担の重い義務を回避することもできます。
2 前払式支払手段とは?
まずは、「6ヶ月」の意味を紹介する前に、前払式支払手段とはどのようなものなのかを見ていきましょう。
(1)前払式支払手段
「前払式支払手段」とは、何らかの商品を手に入れるために、事前にお金から変換しておいたコインやポイント、チケットなどのことです。 具体的には、以下の条件すべてに合致しているものを「前払式支払手段」といいます。- 金額等の財産的価値が記載・記録されること(価値の保存)
- 対価を得て発行されること(対価発行)
- 代価の支払いなどに使用できること(権利行使)
(2)「自家型」と「第三者型」
前払式支払手段は、利用目的に応じて、以下の2つに分類されます。- 自家型前払式支払手段
- 第三者型前払式支払手段
①自家型前払式支払手段
「自家型前払式支払手段」とは、発行している事業者が提供するサービス内でのみ利用できるものをいいます。 例えば、以下のようなものが「自家型」に該当します。- ゲーム内コイン・ポイント
- 発行店舗のみ使える商品券
②第三者型前払式支払手段
「第三者型前払式支払手段」とは、発行している事業者だけでなく、ほかの事業者が提供するサービスでも利用できるものをいいます。 例えば、以下のようなものが「第三者型」に該当します。- 交通系電子マネー
- 加盟店で使える商品券
(3)前払式支払手段発行者に発生する義務
前払式支払手段の発行者には、自家型、第三者型の区別により異なりますが、いくつか義務が発生します。 そのうちの重要な義務として、発行保証金の供託義務があります。
3 供託義務とは?
そもそも、「発行保証金の供託義務」とは、どういった義務なのでしょうか。
詳しく解説していきます。
(1)倒産などのトラブルへの備えが目的
「供託義務」とは、倒産やサービス終了などが原因で、すでに入手している前払式支払手段が使用できなくなる利用者への保証を目的として、事業者に対し、一定のお金を保全しておくように義務付けたものです。 もしも発行事業者が倒産した場合、供託所に預けている「発行保証金(供託金)」から、利用者に対して返金が行われるのです。(2)供託義務が発生する基準
自家型前払支払手段の発行をしており、かつ毎年3月末か9月末の時点(基準日)で未使用残高が1000万円以上ある事業者は、当該未使用残高を供託する必要があります。 「未使用残高」とは、現金から前払式支払手段に変換後、まだ使われていないもののことです。 たとえば、1ポイント10円という価格設定でゲーム内コインを提供していた場合、使われていないコインが100万コイン(=1000万円)あると、供託義務が発生することになります。 1000万円以上の未使用残高がある前払式支払手段の場合、利用できなくなると多くの被害者数が生じると考えられます。そのため、未使用残高が1,000万円以上になると、発行者に対して供託義務が発生するのです。 供託所(法務局など)に供託する額は、未使用残高の半額。つまり、最低でも500万円を供託しなくてはなりません。 このように、供託義務はスタートアップなどにとっては、非常に重い義務であるため、できれば供託義務を回避する形でサービス設計をしたいと考えるのが自然でしょう。 そこで用いられるのが「6ヶ月」という期間です。 そもそも、前払式支払手段の有効期限を6ヶ月以内と設定すれば、「適用除外となる前払式支払手段」となり、供託義務は発生しません(資金決済法4条2号・同施行令4条2項)。【ここまでのまとめ】
自家型前払支払手段の発行額(未利用残高)が1000万円を超えると供託義務が発生するが、有効期限を6ヶ月以内と設定すれば供託義務は発生しない。
4 有効期限を設けて供託義務を回避する方法
それでは、どのように有効期限を設ければいいのでしょうか。
(1)利用規約にエクスパイア条項を設ける
主にインターネットやアプリで前払式支払手段を発行する場合、利用規約にエクスパイア条項を設ける方法が一般的です。 エクスパイア条項とは、有効期限について定めた項目のことをいいます。 それでは、何故利用規約にエクスパイア条項を設けるのでしょうか。 そもそも、利用者は、サービスを利用する前に、必ず利用規約に同意することを求められます。利用者は、利用規約に同意すると、利用規約の内容を守り、また、そのルールのもとでサービスを利用することを承諾することになるのです。 そのため、利用規約にエクスパイア条項を設けておくことで、利用者の同意を得て、有効期限のルールを適用することができます。 利用規約では、例えば以下のように記載します。【記載例】
○○コイン(前払式支払手段の名称)の有効期間は、ポイントが付与された日から180日とし、有効期間が過ぎたコインは無効とする。
(2)チケットなどに有効期限を印字する
前払式支払手段が商品券やカタログギフト券などの場合、そのチケットに「2020年11月30日まで有効」など、発行日から6ヶ月以内の期間を有効期限として記載する方法があります。(3)有効期限を設けられないケース(アプリガイドラインの問題)
このように、前払式支払手段に有効期限を設けることで、供託義務を回避できますが、実は有効期限を設けられないケースがあります。 例えば、ゲーム内コインを発行するアプリケーションをリリースする場合、Google PlayとApp Storeが主なリリース候補先となります。 しかし、「App Store Reviewガイドライン」の規定には、「ゲーム内通貨への有効期限の設定を禁止する」という旨の記載があるため、有効期限を設けることができません。 それでは、有効期限を設けることができない場合に、供託義務を回避する方法はあるのでしょうか。(4)有効期間を設けるだけでは足りない
また、私が弁護士として多くの規約を見ていて目に付くのが、「期限を設けているものの、ルール設定が不十分」という事例です。 例えば、最初に10000円分のゲーム内通貨をカード決済で購入し、その1ヶ月後、それを使い切る前に更に10000円のゲーム内通貨を購入したとします。 この場合、6ヶ月のカウントは購入日ごとに行います。最後に補充した日から6ヶ月以内、というカウント方法だと最初のゲーム内通貨は6ヶ月以上有効であったことになってしまい、 供託義務の対象となる「未利用残高」へのカウントがされてしまいます。 また、発行日の異なる複数の前払支払手段がある状態でゲーム内通貨を使用する場合、どの通貨から優先的に使用するのかを決めておく必要があります。 更に、有効期間6ヶ月のルールを回避するようなアクションが許されている(例えば、6ヶ月経過したら自動的に払い戻し、再購入をする、等)場合も6ヶ月以内ルールは適用されません。【ポイント】
・利用規約には、「有効期間は発行日から6ヶ月以内」と明示し、その通り運用する
・使用ルール(「先入れ先出し(FIFO)」、「後入れ先出し(LIFO)」など)を明示する
・例外的に6ヶ月ルールを回避できるような抜け穴を塞ぐ
この辺りの基本的な実装ができていないと危険です。
5 無償ポイント(無償コイン)との併用発行について
(1)有償ポイントと無償ポイントは「絶対に混ぜない」+「有償から先に使う」が鉄則
前払式支払手段としての有償ポイントと、キャンペーンやお詫びなどで付与する無償ポイントを同時に発行するサービスでは、 「区別」と「消費順序」の設計をミスると、資金決済法上かなり不利な扱いになりかねません。 特に重要なのが次の2点です。- 有償ポイントと無償ポイントを必ず区別すること
- ユーザーがポイントを使うときは「有償ポイントから先に」消費させること
① 有償と無償を「システム上も」区別しておく
まず大前提として、有償ポイントと無償ポイントは、 法的な位置づけも、資金決済法上のリスクもまったく別物です。- 有償ポイント:ユーザーが現金やクレジットカードでチャージした対価として発行されるポイント
- 資金決済法上の「前払式支払手段」に該当する可能性
- 残高・発行額に応じて、供託義務や登録義務の対象となり得る
- 無償ポイント:キャンペーン・クーポン・お詫びなどで、事業者が任意に付与するポイント
- 法的性質は「将来の値引きの約束を数値化したもの」(資金決済法の前払式支払手段ではない)
- 直接の規制法はないが、景品表示法の規制に注意
- DBテーブル上で「paid」「free」などのフラグを分ける
- 管理画面や会計処理でも、有償・無償残高を分けて集計できるようにする
- ユーザー向け画面でも、「有償ポイント〇〇」「無償ポイント〇〇」と見える化する(必須ではない)
②ポイント消費は「有償ポイント → 無償ポイント」の順で
もう1つのポイントは、どちらのポイントから先に消費されるかという設計です。 もし、- 無償ポイントから先に使われる
- 有償ポイントが後ろに残りやすい
- ユーザーが支払いにポイントを使うときは ①有償ポイント → ②無償ポイントの順に自動で消費する
- 有償ポイントはできるだけ早く使われていき、残高が必要以上に膨らまない
- 無償ポイントは「おまけ」のような扱いで後ろに回るため、 有償残高=供託計算のベースを相対的に小さく保ちやすくなる
- システム仕様書
- 利用規約(ポイント規約)
- 社内の運用ルール
(2)「有償・無償の区別」と「有償先消費」はコストに直結する
有償ポイントと無償ポイントをきっちり分けること、 そして有償ポイントから先に消費させることは、- ユーザーにとっての分かりやすさ
- 会計・税務上の整理のしやすさ
【ここまでのまとめ】
「ユーザー体験」と「法規制コスト」を両立させるうえで、有償ポイント/無償ポイントの設計は、プロダクト初期から必須の検討項目だと考えましょう。
6 FAQ(よくある質問)
Q1. 「6ヶ月の有効期限」を付ければ、資金決済法の適用や供託義務を完全に回避できますか?
A. 「6ヶ月だから絶対安全」というわけではありません。 資金決済法上、「発行日から6ヶ月以内に権利行使される前払式支払手段」は、一定の条件のもとで適用除外となり、供託義務も課されません。 ただし、次のような場合は注意が必要です。- 6ヶ月経過後に自動返金→同額自動チャージするなど、「見せかけだけ6ヶ月」のスキームになっている
- カウント漏れなど、発行日から6ヶ月を超えて利用できる運用(自動延長・例外的な救済など)を認めている
- 有効期限は「発行日から6ヶ月」など、発行日ベースで明確に定義する
- 例外的な延長や、自動返金→再チャージのような「抜け道」を作らない
- 実際の運用も規約どおりに徹底する(社内ルール・CS対応まで含めて)
Q2. 有効期限の「6ヶ月」は、最終利用日からカウントしてもいいですか?複数回チャージした場合はどう扱えばよいでしょうか。
A. 「最終利用日から6ヶ月」ルールにすると、6ヶ月を超える残高が生じやすくなり、適用除外の前提を崩しやすくなります。 6ヶ月による適用除外をきちんと主張したいのであれば、- チャージ(発行)ごとに「発行日から6ヶ月」で有効期限を設定し
- 「どのポイントから先に使うか(FIFO/LIFO)」を明確に決めておく
- 4月1日に10,000円チャージ → 9月30日まで有効
- 5月1日に10,000円チャージ → 10月31日まで有効
- 利用時には「発行日の古いポイントから順に消費する(先入れ先出し)」
- 各ポイントは、自分の発行日から6ヶ月を超えては使えない
Q3. 有償ポイントと無償ポイントを両方発行する場合、供託義務との関係で何に注意すべきですか?
A. ポイントは「有償」と「無償」を必ず分けて管理し、有償ポイントから先に消費させることが重要です。- 有償ポイント ユーザーが現金やクレジットカードなどでチャージした対価 → 資金決済法上の前払式支払手段に該当し、未使用残高は供託義務の算定対象になります。
- 無償ポイント キャンペーン・お詫び・クーポンなどで事業者が任意に付与するもの → 通常は対価性がなく、前払式支払手段の発行残高には含めない整理が可能です。
- システム上・台帳上で有償/無償を区別していない
- 画面上も「ポイント残高」として一本でしか表示していない
- DB・台帳・会計・UIのすべてで「有償」「無償」を区別する仕様にする
- 利用時の消費順序は「①有償ポイント → ②無償ポイント」とし、規約にも明記する
- 供託額の計算は「有償ポイント残高のみ」をベースに行う設計にしておく
7 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下の通りです。- 「価値の保存性」「対価発行」「権利行使」の要素に合致するものは、前払式支払手段として定義される
- 前払式支払手段は、発行した事業者との関係でのみ利用できる「自家型前払式支払手段」と、発行した事業者以外の事業者との関係でも利用できる「第三者型前払式支払手段」の2タイプに分かれている
- 「自家型」「第三者型」関係なく、前払式支払手段発行者には、主に、「情報の提供義務」「発行保証金(供託金)の供託義務」の2つが課される
- 「発行保証金(供託金)の供託義務」とは、毎年3月末か9月末時点で、未使用残高が1,000万円を超えていた場合、その半額を供託所(法務局など)に預けなければならないとする義務である
- 「供託義務」を回避する術として、前払式支払手段の有効期限を「6ヶ月」を超えない範囲で設定する方法がある
- 有効期限を設けるときは、①利用規約にエクスパイア条項を設ける、②チケットそのものに有効期限を記載する などの方法が考えられる
- 前払式支払手段の有効期限を設ける場合は、利用規約の記載や運用ルールに注意
- 無料コインとの関係、景品表示法との関係にも注意する











