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自動運転事故で誰がどんな法律上の責任を負うの?6つの視点で解説

2018.01.132025.11.27
自動運転車の事故責任
この記事の目次

    はじめに

    何らかの意味で自動化された自動運転車が事故を起こしてしまった場合、「誰がどのような法律上の責任を負うのか」について、自動運転車にかかわるプレイヤーなら、一度は考えたことがあるのではないでしょうか?

    2016年5月にテスラ・モーターズ製の電気自動車「モデルS」による死亡事故が起きたこともあり、この「自動運転車の事故と責任」の議論が活発に行われています。

    現時点での自動運転車においては、「人」による一定の関与を前提としつつ、部分的に「システム」による自動化がされています。そのため、事故が起きたとしても、単純に運転者の責任ともいえなさそうですし、だからといって、「システム」それ自体に責任を問うことができるかというと、システム自体は「人」ではないからこれまた難しそうです。

    このように、少し考えるだけでもややこしい自動運転車事故の責任問題ですが、現時点では結論が出ていません。

    そこで今回は、自動運転車が事故を起こした場合、①誰が、②どのような責任を負うのかについて、一弁護士の視点から具体的にわかりやすく解説していきます。

    この記事を書いた人

    勝部 泰之勝部 泰之弁護士
    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。
    一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科に在籍中。主な興味分野は経営学、高次元統計、自然言語処理、ゲーム理論、金融アルゴリズム、ブロックチェーン。
    研究リポジトリはこちら↗

    1 自動運転車とは

    自動運転車とは

    (1)自動運転車の意味

    「自動運転車」とは、人が操作しなくても、自動運転システムが手動でやっていた操作の一部または全部を担うことによって、スムーズに走行することができる自動車のことをいいます。

    自動運転と聞くと、現在多くの車種に搭載されている「自動ブレーキシステム」や、一定の間隔を保ちながら前の車に追従する「ACC(アダプティング・クルーズ・コントロール)」、また、無人運転のように最初から最後まで人間による操作がいらないものなど、人によってさまざまなタイプのものを想像すると思います。

    実は、これらはすべて「自動運転車」に含まれ、それぞれの違いは、自動運転の「レベルの違い」でしかありません。

    (2)自動運転のレベルの定義

    「自動運転のレベル」は、ざっくり言いますと、①ハンドル、②アクセル、③ブレーキの3つ(「3要素」)について、どこまで自動化できているのか?という視点から、4つに分かれています。

    自動運転レベル

    「レベル1」は、3要素のうち、いずれか一つが自動化された自動車で、「レベル2」は二つ以上自動化されたものをいいます。

    「レベル3」は、3つ(厳,密には2つ以上をハイレベルに)自動化された自動車で、ある程度無人運転は可能ですが、緊急時には運転者の一定の関与が必要なものをいいます。

    最後に、「レベル4」とは、完全に自動化した自動車をいい、運転者の関与を必要としないものをいいます(完全無人運転)。

    この中で現在一般的に普及しているのは、レベル1・2のタイプにとどまります。「自動ブレーキシステム」などは、CMでもよく見かけますよね。

    レベル3・4についてはまだ開発途中で、数年後の実用化を目指しているといった状況です。

    ただし、現行法上はレベル4のような「完全な自動運転車」が公道を走ることは禁止されているため、少なからず、人による運転制御への「関与」が必要とされています。

    2 自動運転事故で誰がどのような法律上の責任を負うのか?

    自動運転事故の法的責任

    自動運転車は、運転制御をシステムが自動で行ってくれることが特徴です。さきほどの図のように、レベルが上がるほどシステムによる制御割合が増え、レベル4では基本的に人が関与することはありません。

    では、自動運転車が事故を起こした場合、一体誰が法律上の責任を負うことになるのでしょうか?自動車の運転について、「人」による制御と「システム」による制御が並存するため、事故に対する責任をどのように分担すればよいのかが問題となります。

    現行法では、「人」の操作によって自動車事故が起きた場合を想定しています。もちろん、「システム」そのものは事故に対する責任を負うことはできません。そのため、「システムに関する責任」は、その開発者や関係者が負うことになります。

    自動運転車が事故を起こした場合に法律上の責任を負う可能性がある者として、具体的には次のパターンが考えられます。
    1. 運転者
    2. 所有者(運行供用者)
    3. 自動運転車メーカー
    4. 制御プログラムの開発者
    5. データ提供者
    6. 国・地方公共団体
    以下では、それぞれがどのような法律上の責任を負うのかについて、近い将来実用化されるであろう「自動運転レベル3」のケースを中心に解説していきます。

    3 責任者①:自動運転車の運転者

    運転者の責任

    自動運転車が事故を起こした場合、運転者は「不法行為責任」を負う可能性があります。

    (1)不法行為責任

    「不法行為」とは、他人の権利を違法に侵害する行為をいいます。不法行為によって他人に損害を与えてしまった場合、加害者は、その損害を賠償する責任を負います。これを「不法行為責任」といいます。

    例えば、交通事故によって相手にケガを負わせてしまった場合、加害者(運転者)は、相手のケガの治療費や慰謝料などの損害賠償をしなければなりません。

    (2)不法行為責任の要件

      【不法行為責任の要件】
    1. 他人の権利などを侵害すること
    2. 故意または過失があること
    3. 「1.」の行為によって損害が発生したこと
    「不法行為責任」が認められるためには、「故意」または「過失」が必要となります。

    「故意」とは、ある行為をわざとやることをいい、「過失」とは、ある行為をついうっかりやってしまうこと(不注意)をいいます。

    運転者がわざと他人を轢いた場合のように、故意が認められるケースでは、不法行為責任を負うのは当然です。ポイントは、事故が起きたときに、運転者に「過失」が認められるかどうか?という点になります。

    次の項目で詳しくみていきましょう。

    (3)運転者の過失の有無

    ①過失とは

    「過失」とは、ちょっと注意すれば行為の結果を予想することができたのに、その注意をせず、結果の発生を回避することを怠った状態をいいます。一言でいうと、ある行為をついうっかりやってしまうこと(不注意)でしたね。

    過失の中身は、「予見可能性」と「結果回避義務」に分けることができます。そして、予見可能性があることを前提に、結果回避義務が尽くされていない場合、行為者に「過失あり」と判断され、不法行為責任を負わなければなりません。

    「予見可能性」とは、自分の行動によって危険な状態や損害が発生する可能性を、あらかじめ予想(予見)することができたかどうか、をいいます。例えば、嵐の中船をだせば転覆の恐れがあることなど、少し考えれば結果の発生を予想することができた場合には、「予見可能性あり」と判断されます。

    次に、「結果回避義務」とは、行為の結果を予想できること(予見可能性)を前提に、その結果を回避する行動をとらなければならないことをいいます。

    例えば、自動車の運転をしているときには前方に人が飛び出してくることが予想でき、運転者は、衝突を回避するため、ハンドル・アクセル・ブレーキなどの操作を適切に行わなければなりません。この「回避行動」が行われていない場合、結果回避義務違反となり、行為者に「過失があったこと」が認定されます。そのため、運転者は不法行為責任を負うことになります。

    ②過失の有無の判断

    では、自動運転車が事故を起こした場合、運転者の不法行為責任について、「過失」の有無はどのように判断されるのでしょうか?

    レベル3の自動運転車の場合、運転操作は基本的にすべてシステムが行うため、システムの要請がない限り運転者は操作に関与する必要がありません。このことは、レベル3の自動運転車が公道を走ることを許されていることからみても、社会的に認められています。

    そして、危険(事故)回避についてもシステムの判断で自動的に行われるため、基本的に運転者には「結果回避義務」がありません。

    そのため、例えばシステムに何らかの不具合が生じ事故が起こってしまった場合、仮に予見可能性が認められたとしても、運転者に対し「結果の発生を回避することを怠った」ということはできず、過失が認められることはありません。

    ただし、レベル3の自動運転車は、緊急事態などの「システムが要請した場合」には運転者による操作が求められます。

    そのため、例えば運転者が前方をちゃんと見ていなかったためにシステムからの要請にすぐに対応することができず、その結果事故が起こってしまった場合には、前方不注意について運転者の過失が認められる可能性があります。

    (4)結論

    レベル3の自動運転車においては、システムの不具合に起因する事故の場合には、運転者は不法行為責任を負うことはありません。

    他方で、緊急事態としてシステムからの要請があったにもかかわらず、運転者の不注意でこれにきちんと対応しなかったような場合には、運転者は不法行為責任を負うことになります。

    なお、レベル4の自動運転車の場合には、自動車の走行についてすべてシステムが行うため、運転者の責任について論ずる余地はありません。

    4 責任者②:自動運転車の所有者(運行供用者)

    運転供用者の責任

    自動運転車の所有者は、不法行為責任を負う可能性があるほか、人身事故については自賠責法上の「運行供用者責任」を負う可能性があります。

    (1)運行供用者責任(自賠責法)

    「運行供用者責任」とは、交通事故が起きた場合に、実際に自動車を運転していた人だけではなく、「運行供用者」にあたる人についても一定の範囲で損害賠償責任を負わせるルールのことをいいます。

    「運行供用者」とは、事故を起こした自動車のコントロールができる立場で、自動車の運行により利益を得ている人のことをいい、自動車の「所有者」も運行供用者にあたります。

    例えば、社用車の所有者である「会社」や、友人に車を貸した個人などです。

    では、なぜ事故の直接の加害者ではない「運行供用者」が責任を負わなければならないのでしょうか?

    それは、被害者をより広く救済するためです。

    交通事故の被害者は、普通、加害者に対して不法行為責任に基づく損害賠償請求をします。ただ、過失の立証が難しいなどの理由で請求が認められないなど、被害者に不利な場面が多々あります。

    そこで、「運行供用者責任」という制度を設けることによって、損害賠償請求の相手方が拡大し、立証責任を軽減するなど、被害者にとって有利な状況となり、賠償金を回収できる可能性を広げているのです。

    (2)運行供用者責任の要件

    運行供用者責任が認められるためには、以下の3つの要件をみたす必要があります。
    1. 運行供用者であること
    2. 自動車を運行したこと
    3. 他人の生命・身体を侵害したこと
    これら3つの要件をみたした場合、運行供用者は、被害者に対して損害賠償責任を負わなければなりません。

    ただし、運行供用者は、以下の3つの要件をすべてみたすことで、運行供用者責任を免れることができます。
    1. 運行供用者および運転者が注意を怠らなかったこと(無過失であること)
    2. 事故発生原因について、被害者・運転者以外の第三者に故意・過失があったこと
    3. 自動車に構造上の欠陥または機能の障害がなかったこと
    「1.」の内容は、運転供用者と運転者が、①「運転に関する」注意を怠らなかったこと、②「自動車の点検や整備に関する」注意を怠らなかったこと、に分けられます。

    ①については、運転者の責任と同じように、システムの不具合によって事故が起こった場合には過失は認められませんが、運転者がよそ見などをしていてシステムの要請に応えられず事故につながったような場合には、過失が認められる可能性があります。

    ②については、エンジンやブレーキなどの整備点検がきちんとなされていたのかということのほか、自動運転システムのアップデートが随時行われていたかどうかなどの、ソフトウェアの維持管理に関しても問題となります。

    「2.」は、発生した事故について、運転者と運転供用者以外に責任を負担する人がいるかどうかの問題です。例えば、誰かが自動運転システムに不正にアクセスして、正常に動作しないように細工した場合、「第三者に故意があった」と認められます。

    「3.」については、レベル3の自動運転車の場合、人による運転操作の余地が残されているため、システムの不具合=構造上の欠陥または機能の障害とはならない場合もあることに注意が必要です。

    例えば、人間の感覚では感知できないような事柄に反応して自動ブレーキがかかるシステムを搭載している自動運転車のケースを想定します。仮にそのシステムに不具合があって作動しないとしても、そのシステムを搭載していない自動車に比べて特に危険な状態であるとはいえません

    そのため、この要件については、どのような機能をもつシステムに欠陥や不具合があったのかを、個別に判断していくことになります。

    (3)結論

    レベル3の自動運転車において、上記の3つの免責要件を立証できない限り、運転供用者は運転供用者責任を負わなければなりません。実際には、ほとんどのケースで免責されないため無過失責任に近く、運転供用者は損害賠償責任を負う可能性がとても高くなっています。

    なお、レベル4の場合には、そもそも「運転者」が想定できませんが、この場合でも運転供用者の存在は認めることができるとされています。そのため、各要件についてレベル3の場合と同じように検討することになります。

    5 責任者③:自動運転車のメーカー

    自動車製造メーカーの責任

    自動運転車のメーカーは、不法行為責任のほか、「製造物責任」を負う可能性があります。

    (1)製造物責任

    「製造物責任」とは、製品の欠陥やバグによって他人に損害を与えてしまった場合に、製品を製造したメーカーなどがその損害について賠償しなければならないルールのことをいいます。

    製造物責任は、不法行為責任とは違い、メーカーの過失の有無に関係なく責任を負わせること(無過失責任)が特徴です。不法行為責任においてはメーカー側に過失があることを立証するのが困難なため、不利な立場に立たされる被害者の救済を図る目的で、製造物責任は無過失責任とされました。

    メーカーの立場から見れば、とても厳しい法律です。

    (2)製造物責任の要件

    メーカーの製造物責任が認められるためには、以下の3つの要件をみたす必要があります。
    1. 製品などの
    2. 欠陥により
    3. 他人の生命・身体または財産を侵害したこと
    この中で特に問題となるのは、「2.欠陥」です。

    「欠陥」とは、製品が通常備えているはずの安全性を欠いていることをいいます。

    例えば、自動車の部品に不良品が混じっていて、正常に運行することができずに事故が起きてしまった場合などは、その自動車について「欠陥があった」と認められます。

    では、自動運転車においては、どのような場合に「欠陥」が認められるのでしょうか?

    自動運転車の運転制御システムには、AI、もしくはAIに近いものが搭載されています。そのため、複雑なシステムが搭載された自動運転車における「通常備えているはずの安全性」とは何なのか、が問題となります。

    この点、レベル3の自動運転車は、制御システムからの要請がない限り人が運転に関与することはなく、運転操作はすべてシステムによって行われます。そのため、「通常備えているはずの安全性」とは、
    • 一般的に想定できる範囲の状況において、システムが安全に自動車の運行制御ができること
    • システムが、緊急事態において適切に運転者へ対応を要請できること
    であると考えられます。

    そして、これらがみたされていない場合には、その制御システムについて「欠陥」が認められることになります。

    ただし、今後制御システムのレベルがさらに上がっていき、人の生命や身体などの重要な法益までも制御システムにゆだねられるようになると、システムに求められる「通常備えているはずの安全性」の水準も上に挙げたものより高くなります。そうすると、今よりもシステムの「欠陥」が認められやすくなることが考えられます。

    (3)結論

    レベル3の自動運転車においては、製造メーカーは、制御システムについて「欠陥」が認められた場合には、製造物責任を負うことになります。

    なお、レベル4の自動運転車についても基本的にはレベル3と同じように検討すればOKです。

    ただし、レベル4ではシステムの要請により人が操作するといった状況がないため、「普通では考えられないような異常事態が発生しない限り安全に自動運転がなされること」が、「通常備えているはずの安全性」といえるでしょう。

    6 責任者④:制御プログラムの開発者

    プログラム開発者の責任

    自動運転車に搭載されているシステムに不具合があり事故が起こった場合、自動運転車に「欠陥」があったとみなされ、プログラムの開発者は「製造物責任」を負う可能性があります。

    (1)製造物責任

    プログラムの開発者は、被害者に対し、理論的にはメーカーと同じように製造物責任を負うと考えられます。ただし、プログラムは自動運転車の一部に過ぎないため、実際はメーカーが矢面に立ってまずは一次的な賠償をすることが多いと想定されます。

    そのため、プログラム開発者とメーカーの間では、被害者に対する賠償を済ませたメーカーが、賠償分のうちプログラム開発者の責任負担部分について改めて請求する、といった形をとることになります。

    (2)契約責任

    では、プログラム開発者とメーカーのそれぞれの責任負担の割合はどのように決まるのでしょうか?

    この点については、とくに法律で定められているわけではなく、あくまでも両者の間で交わされた「契約書」の内容によって決まります(「契約責任」の問題)。

    契約書には大抵、「〇〇の場合にはメーカーが、▲▲の場合にはプログラム開発者が責任を負うこととする」といった内容の記載があるため、これに従って責任を負う者が決まります。

    両者に帰責性がある場合の責任負担割合も同じように、最初にどのような取り決めをしたかによって決まります。

    (3)結論

    レベル3の自動運転車において、プログラム開発者がどのような責任を負うかは、契約書の内容次第となります。

    なお、レベル4の自動運転車についても、レベル3と同じように考えられます。

    7 責任者⓹:データ提供者

    データ提供者の責任

    民間の事業者などが、自動運転に必要なデータ(例えば、走行ルートに関するデータや地図データなど)を直接ユーザーに提供することが考えられます。そして、データが間違っていたことが原因で事故が起きた場合には、データ提供者は、債務不履行責任を負う可能性があります。

    (1)債務不履行責任

    「債務不履行責任」とは、債務者(義務を負う人)が、契約の内容に沿った義務を果たさなかった場合に負う責任のことをいいます。上の例では、データ提供者は、「間違いのないデータをユーザーに提供する義務」を果たしていないため、損害賠償などの責任を負わなければばりません。

    このときにデータ提供者がどの程度の責任を負うかは、データ提供者とユーザーがどのような契約をしているかによって決まります。実務的には、さきほどのプログラム開発者の場合と同じように、「契約書」(事業者とユーザーの間においては「利用規約」による場合が多い)の内容次第、ということです。

    (2)結論

    レベル3の自動運転車において、データ提供者が提供したデータに間違いがあり、これが原因で事故が起きてしまった場合、データ提供者は、利用規約などの取り決めに従って損害賠償責任などを負うことになります。

    なお、データ提供者のデータをユーザーに直接するのではなく、初めから自動運転にプリインストールさせる場合には、プログラム開発者の責任と同じ考え方になるため、データ提供者とメーカーとの間での責任分担の問題になります。

    レベル4の場合も、レベル3と同じように検討します。

    8 責任者⑥:国・地方公共団体

    国の責任

    現在流通している自動運転車は、ほとんどが、自動車本体に搭載されたセンサーなどによって周りの自動車や障害物を判断し、これをもとに制御システムが自動車の運転を制御する、という方式をとっています。

    ですが、今後今よりもさらに自動運転車が普及した場合に、自動運転車が安全に走行できるよう、国がビーコン(位置情報などを取得するための機械や設備のこと)などのインフラ整備をする可能性があります。

    このようなインフラが正常に機能していることが自動運転車の安全な走行の前提になっているとすると、インフラの不具合が原因で自動運転車が事故を起こしてしまった場合には、国は、被害者に対して「国家賠償責任」を負う可能性があります。

    (1)国家賠償責任

    「国家賠償責任」とは、公務員が他人に損害を与えた場合や、公共物などに不具合があって誰かが損害を被った場合に、国や地方公共団体がその損害について賠償責任を負うことをいいます。

    上の例のように、ビーコンなどのインフラ(=公共物)に不具合があって、これによって損害が発生した場合には、国家賠償法2条1項による賠償責任が問題となります。

    (2)国会賠償責任の要件(2条1項)

    公共物に関する国家賠償責任が認められるためには、以下の2つの要件をみたす必要があります。
    1. 公の造営物について
    2. 設置または管理に瑕疵があること
    1.の「公の造営物」とは、要するに公共の物のことをいい、例えば道路やトンネル、公園の遊具などがこれにあたります。また、川なども国や地方公共団体が管理しているのであれば「公の造営物」にあたります。

    2.の「瑕疵」とは、製造物責任の場合の「欠陥」と同じように、「普通なら備えているはずの安全性を欠いていること」をいいます。どのような場合に「瑕疵」があったかといえるかについては、一律の基準はなく、それぞれの事案ごとに個別具体的に判断することになります。

    例えば、自動運転車事故が起きたときにビーコンが正常に作動しておらず、管理者である国や地方公共団体が修理などをきちんと行っていなかった場合、普通であれば備えているはずの安全性を欠いていたということができ、公の造営物の管理について「瑕疵」があったと認められる可能性は高くなります。

    (3)結論

    レベル3の自動運転車において、国や地方公共団体は、上記の要件をみたした場合に国家賠償責任を負うことになります。

    なお、インフラとして地図などのデータが国から提供されるケースも考えられますが、データは無体物であるため「公の造営物」にはあたらず、国家賠償法の問題にはなりません。このケースでは、不備のあるデータを提供した公務員に故意・過失があった場合に「国家賠償法1条1項による賠償責任(公務員などの行為によって損害が発生した場合に、国や地方公共団体が賠償席員を負うもの)」が発生することになります。

    レベル4の自動運転車の場合にも、レベル3と同じように検討することになります。

    9 ペナルティ(刑事責任)

    刑事罰

    自動運転車が事故を起こした場合、これまで解説してきた民事責任とは別に刑事責任を負う可能性もあります。

    刑事責任を負うことが想定されるのは、
    1. 事故を起こした自動運転車の運転者
    2. 自動運転車の製造メーカー
    の2者です。順番にみていきましょう。

    (1)運転者の刑事責任

    自動運転車による刑事責任を検討する前提として、まずは「普通」の自動車による事故で他人が死傷した場合の責任について確認します。

    この場合、普通自動車の運転者は、「危険運転致死傷罪」・「過失運転致死傷罪」に問われる可能性があります。

    危険な運転で人を死亡させた場合が「危険運転致死罪」、同じく危険な運転で人を負傷させた場合が「危険運転致傷罪」、運転に必要な注意を怠り、人を死傷させた場合は「過失運転致死傷罪」にあたります。

    それぞれの法定刑は以下のとおりです。
    • 危険運転致死罪:最大20年の懲役
    • 危険運転致傷罪:最大15年の懲役
    • 過失運転致死傷罪:最大7年の懲役または最大100万円の罰金
    また、道路交通法に定められている「運転者の義務」に違反した場合にも、罰則が科される可能性があります(最大10年の懲役または最大100万円の罰金)。「運転者の義務」には、例えば、無免許運転の禁止、過労運転の禁止、安全運転の義務などがあります。

    これらの刑事責任を「自動運転車」について考えてみると、レベル1・レベル2の自動運転車での事故の場合には、運転操作について人が担う部分がほとんどであるため、普通の自動車事故と同じ責任を負うことになると考えられます。

    他方で、レベル3以上の自動運転車の場合、システムが運転操作のほぼすべてを担うようになり、人が関与する余地がほとんどなくなります。そのため、不法行為における過失の要件の要件で検討したように、運転者に結果回避義務違反が認められるケースは少なくなり、結果的に、運転者に刑事責任が問われる可能性は低くなると考えられます。

    (2)自動運転車メーカーの刑事責任

    自動運転車が事故を起こし、他人を死傷した場合、メーカーは、業務上過失致死傷罪に問われる可能性があります(最大5年の懲役または最大100万円の罰金)。

    業務上過失致死罪が認められるには、以下の2つの要件をみたす必要があります。
    • 自動車の不具合とそれによって引き起こされる可能性のある事故について、具体的に予測することが可能であったこと
    • 事故回避のための対策をとれたにもかかわらずこれを怠ったこと
    具体的には、メーカーが、自社で製造している自動運転車についての不具合を把握していたのに敢えてこれを放置した結果、人が死傷するような事故が起きてしまったような場合です。このような場合には、メーカーは、業務上過失致死罪に問われる可能性があります。この刑事責任を負うかどうかは、運転者の刑事責任とは違い、自動運転車のレベルに関係はありません。

    10 小括

    まとめ

    自動運転車は、その運行に関して運転者という「人」の関与と、制御「システム」による関与の二つが併存します。

    そのため、通常の交通事故とは違った視点から責任を負担する者を検討しなければなりません。

    レベル3以上の自動運転車については現段階では実用化されていませんが、今後実用化されたときに備え、少なくともこの記事で書いた内容については把握しておくことが必要です。

    11 まとめ

    これまでの解説をまとめると以下のとおりです。
    • 「自動運転車」とは、人が操作しなくても、自動運転システムがその一部または全部を担うことによって、スムーズに走行することができる自動車のことをいう
    • 自動制御システムのレベルは、①ハンドル、②アクセル、③ブレーキの3つについて、どこまで自動化できているのか?という視点から4つに分かれており、現在普及しているものはレベル1・2(①~③のうち、1・2個自動化に成功している。)。レベル3・4については数年後の実用化を目指して開発段階にある
    • 自動運転車の事故によって責任を負うことになる者として、①運転者、②所有者(運行供用者)、③自動運転車メーカー、④制御プログラムの開発者、⓹データ提供者、⑥国・地方公共団体が考えられる
    • ①運転者は、不法行為責任を負う可能性がある
    • ②所有者は、不法行為責任のほか、運転供用者責任を負う可能性がある
    • ③自動運転車メーカーは、不法行為責任のほか、製造物責任を負う可能性がある
    • ④制御プログラムの開発者は、製造物責任を負う可能性がある
    • ⑤データ提供者は、債務不履行責任を負う可能性がある
    • ⑥国・地方公共団体は、国家賠償責任を負う可能性がある
    • 自動運転車が事故を起こした場合、運転車とメーカーは、民事責任だけでなく刑事責任を負う可能性もある
    AUTHOR
    勝部 泰之

    データサイエンス研究しながら仕事してる弁護士。 一橋大学ソーシャル・データサイエンス研究科(M1・清水研究室)。

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