投資契約における表明保証とは?事業者の3つの対応策を弁護士が解説
2019.11.12

この記事の目次
はじめに
投資を受ける事業者は、一般的に、投資家との間で投資契約を締結することになりますが、投資契約書には、多くの場合、「表明保証条項」が設けられます。
事業者は、「投資家が契約書に入れたいというのであれば…」と提示された表明保証条項をそのまま鵜呑みにしてはいけません。
表明保証とは、そもそもどのような意味なのか、表明保証によりどのような効果が生じるのか、などをきちんと理解していないまま、表明保証をしてしまうと、場合によっては、投資契約違反に問われる可能性があります。
そこで今回は、多くの投資契約で盛り込まれる表明保証条項について、事業者が知っておくべきポイントや対応策を弁護士がわかりやすく解説していきます。
「表明保証」とは、事業者が投資家に対して、投資契約の締結日や実行日などの時点において、投資の前提となる一定の情報や事実関係が、真実かつ正確であることを約束することをいいます。
表明保証は、多くの場合、投資家からの要望により、投資契約書に盛り込まれますが、これは、主に、「デューデリジェンス(=DD)」の補完をするためのものと考えられます。
「デューデリジェンス(=DD)」とは、投資家による投資先企業の調査のことをいい、投資先の企業価値やリスクを把握することを目的として実施されます。
投資家は、投資をするか否かを決めるために、投資先企業の事業計画や財務状況などを調査します。そのためには、事業者から一定の資料の開示を受ける必要があり、開示された資料により、
表明保証は、その条項を定めただけでは、対象となっている事項について「真実で正しいことを保障します」と宣言しただけにすぎず、事業者には何も責任が生じません。そのため、表明保証を定めただけでは意味がなく、投資家は、表明保証を信用できず、安心して投資を行うことはできません。
そこで、投資契約において、違反時のペナルティを設定することで、表明保証条項を意味あるものとする(=実効性の担保)ことが一般的です。
ペナルティの具体的な内容については後で詳しく説明します。
また、ペナルティを設定することで、事業者は、ペナルティを回避するために、表明保証事項と実態が合致しているかどうかを精査する必要が出てきます。仮に、実態と合致しない事実関係がある場合には、表明保証事項を実態に合致する内容に変えてもらえるよう投資家と協議する必要があり、その際には、投資家に対し、変更の根拠となる情報を提供・開示することが必要です。
こうした過程を踏むことで、投資家は、事業者から多くの情報を開示してもらうことができ、より適切に投資判断を行えるようになります。
以上のように、投資家は、投資契約において、表明保証に違反した場合のペナルティを設定することで、表明保証の実効性を担保できるようにしています。
近時では、投資契約において表明保証条項を設けることがほとんどであるため、仮に、事業者が表明保証条項を設けないとした場合には、投資の話が白紙になってしまう可能性が高いといえます。
投資を受けたいと考えている事業者にとって、表明保証を回避する方向で投資家との交渉を進めていくことは現実的ではなく、表明保証を設けることを前提に、いかに自社に不利とならないように表明保証の対象を固めるかが重要なポイントであると考えられます。
このように、事業者は表明保証条項について、自社の実態と照らし合わせて「正しい」内容であるかをチェックし、その結果に応じて、以下のような対応をすることが考えられます。
「サンドバッギング条項」とは、投資家が、事業者による表明保証違反の事実を認識していた、もしくは認識することができた場合に、事業者が表明保証違反の責任を負うかどうかを定める条項のことをいいます。
サンドバッギング条項には、以下の2つの種類があります。
このように、投資家が、表明保証に違反する事実について、知っていたり、不注意により知らなかった場合、プロ・サンドバッキング条項があるケースと、アンチサンドバッキング条項があるケースとでは、表明保証違反の成否に違いが出てきます。
「キャッチオール規定」とは、表明保証の対象となる範囲を、包括的に記載する規定のことをいいます。
キャッチオール規定の記載例は、以下のようになります。
【記載例】
Aは、Bが投資を決定するために必要と考えられる一切の情報をBに提供しており、AがBに対して提供した情報は、真実かつ正確なものであり、また、誤解を生じさせる可能性のある内容や事実の省略は存在しない
事業者は、表明保証条項にキャッチオール規定を設けられた場合には、
事業者が表明保証に違反した場合、
表明保証条項は、投資家が安心して投資を実行するために、デューデリジェンスを補完する意味合いで設けられることが多く、投資契約書の中に盛り込まれることが一般的です。
事業者は、投資を受ける際、投資契約書において表明保証条項が設定されることを前提に、その対象事項を、自社の実態と照らし合わせて、事実関係が本当に合致しているかを検討していくことになります。
表明保証条項に違反するとペナルティを科される可能性もあるため、自社の実態が表明保証の対象と合致しない場合、事業者は、規定の文言に例外や限定を付けるなどの提案をして、自社の実態に合うように投資家と協議していく必要があります。
1 表明保証とは
「表明保証」とは、事業者が投資家に対して、投資契約の締結日や実行日などの時点において、投資の前提となる一定の情報や事実関係が、真実かつ正確であることを約束することをいいます。
表明保証は、多くの場合、投資家からの要望により、投資契約書に盛り込まれますが、これは、主に、「デューデリジェンス(=DD)」の補完をするためのものと考えられます。
「デューデリジェンス(=DD)」とは、投資家による投資先企業の調査のことをいい、投資先の企業価値やリスクを把握することを目的として実施されます。
投資家は、投資をするか否かを決めるために、投資先企業の事業計画や財務状況などを調査します。そのためには、事業者から一定の資料の開示を受ける必要があり、開示された資料により、
- 投資先企業における事業上のリスクの有無
- 投資先企業における技術力や将来性(企業価値)
- 詳細な調査をするのに時間・コストがかかる
- 事業者が投資判断に必要な情報を全て開示しない可能性がある
- 開示資料に誤りなどが存在する可能性がある
- 投資家の求める情報がすべて開示されたこと
- 開示情報が「正しい」ということ
2 表明保証の実効性の担保
表明保証は、その条項を定めただけでは、対象となっている事項について「真実で正しいことを保障します」と宣言しただけにすぎず、事業者には何も責任が生じません。そのため、表明保証を定めただけでは意味がなく、投資家は、表明保証を信用できず、安心して投資を行うことはできません。
そこで、投資契約において、違反時のペナルティを設定することで、表明保証条項を意味あるものとする(=実効性の担保)ことが一般的です。
ペナルティの具体的な内容については後で詳しく説明します。
また、ペナルティを設定することで、事業者は、ペナルティを回避するために、表明保証事項と実態が合致しているかどうかを精査する必要が出てきます。仮に、実態と合致しない事実関係がある場合には、表明保証事項を実態に合致する内容に変えてもらえるよう投資家と協議する必要があり、その際には、投資家に対し、変更の根拠となる情報を提供・開示することが必要です。
こうした過程を踏むことで、投資家は、事業者から多くの情報を開示してもらうことができ、より適切に投資判断を行えるようになります。
以上のように、投資家は、投資契約において、表明保証に違反した場合のペナルティを設定することで、表明保証の実効性を担保できるようにしています。
近時では、投資契約において表明保証条項を設けることがほとんどであるため、仮に、事業者が表明保証条項を設けないとした場合には、投資の話が白紙になってしまう可能性が高いといえます。
投資を受けたいと考えている事業者にとって、表明保証を回避する方向で投資家との交渉を進めていくことは現実的ではなく、表明保証を設けることを前提に、いかに自社に不利とならないように表明保証の対象を固めるかが重要なポイントであると考えられます。
3 表明保証の範囲
(1)表明保証の対象
表明保証の対象となる事項は、会社の基礎的な事実関係から投資契約に関する事実など様々です。 たとえば、投資契約においては、以下のような事項が表明保証の対象となると考えられます。-
- 【
- 】
- 発行会社の株式の発行状況など
- 株式の発行について事業者は適切な機関決定を経ていること
- 投資契約から払込みまでの間に会社の経営に著しい変化がないこと
- 投資契約の締結や履行に関し、法令・契約違反などがないこと
-
- 【
- 】
- 法令違反や訴訟が存在しないこと
- 許認可、知的財産権の取得がされていること
- 反社会的勢力との関係がないこと
(2)表明保証事項のチェックの流れ
事業者が表明保証条項をチェックする際には、たとえば、以下のフローのように行うことが考えられます。
このように、事業者は表明保証条項について、自社の実態と照らし合わせて「正しい」内容であるかをチェックし、その結果に応じて、以下のような対応をすることが考えられます。
- 正しい(〇)
- 正しくない(×)
- わからない(?)
①正しい(〇)
表明保証条項の内容が、自社の実態と照らし合わせて「正しい」といえる場合、表明保証条項はそのままでOKです。事業者は、投資家に対して、何らかの対応を行う必要はありません。②正しくない(×)
表明保証条項の内容に、自社の実態と合致しない内容が含まれており、「正しい」とはいえない場合、事業者は、表明保証条項に合致しない部分を例外として設けることができないかを提案することが考えられます。③わからない(?)
表明保証条項の内容について、後から自社の状況が変化する可能性があるなど、現時点で正しいといえるかわからない場合、事業者は、表明保証条項の文言に「知る限り」「知りうる限り」といった限定の文言を付けられないかを提案することが考えられます。 以下で、②③の対応策について具体的に説明していきます。(3)対応策
上で説明したように、事業者は、自社の実態が、表明保証条項の内容と合致しない場合、以下の2つの対応をすることが考えられます。- 例外を設ける
- 限定を付ける
①例外を設ける
表明保証条項において、その対象に、自社の実態に合致しない事実関係が含まれている場合、その部分を例外として記載できないかどうかを投資家との間で協議することが考えられます。 たとえば、表明保証の対象に、以下のような内容が含まれているとしましょう(以下、A=事業者、B=投資家とします。)。-
- 「Aの役員は、競業他社との間で一切の取引関係を持っていないこと」
- Aの役員が競合他社の株式を保有している
- 「Aの役員は、競業他社との間で一切の取引関係を持っていないこと。ただし、Aと競合する他社の株式を個人的な資産運用目的で保有する場合についてはこの限りでない。」
②限定を付ける
後から自社の実態が変わる可能性があるなど、表明保証条項の内容が実態に合致しているかがその時点で事業者に判断できない場合は、その内容に限定を付けることが考えられます。 たとえば、限定を付ける方法として、以下を使うことが考えられます。-
- (ⅰ)重要性や重大性を意味する文言
- (ⅱ)「知る限り」「知り得る限り」
-
- 「Aは適用ある法令をすべて遵守すること」
- 法令の数は非常に多いため、どの法令が自社に適用されるのかを把握しきれない
- 「Aの知る限り(知り得る限り)、適用ある法令をすべて遵守すること」
4 サンドバッギング条項
「サンドバッギング条項」とは、投資家が、事業者による表明保証違反の事実を認識していた、もしくは認識することができた場合に、事業者が表明保証違反の責任を負うかどうかを定める条項のことをいいます。
サンドバッギング条項には、以下の2つの種類があります。
- プロ・サンドバッギング
- アンチ・サンドバッギング
(1)プロ・サンドバッギング
「プロ・サンドバッギング」とは、投資家の認識の有無にかかわらず、事業者が表明保証条項に反した場合には、表明保証違反が成立することをいいます。(2)アンチ・サンドバッギング
「アンチ・サンドバッギング」とは、投資家が、表明保証違反の事実を認識していた、もしくは不注意でその事実を認識できなかったという場合、その事実との関係においては、表明保証違反は成立しないとすることをいいます。 このように、サンドバッギング条項には2つの種類がありますが、それぞれについて、事業者の責任がどう変わるのかを、次のケースで考えてみましょう。 表明保証の対象に以下のような内容が含まれているとします。-
- 「事業に必要な知的財産権をすべて保有している」
- 事業者は事業に必要な商標権の一部を保有していない(=表明保証違反がある)
このように、投資家が、表明保証に違反する事実について、知っていたり、不注意により知らなかった場合、プロ・サンドバッキング条項があるケースと、アンチサンドバッキング条項があるケースとでは、表明保証違反の成否に違いが出てきます。
-
- 【
-
- 】
5 キャッチオール規定
「キャッチオール規定」とは、表明保証の対象となる範囲を、包括的に記載する規定のことをいいます。
キャッチオール規定の記載例は、以下のようになります。
【記載例】
Aは、Bが投資を決定するために必要と考えられる一切の情報をBに提供しており、AがBに対して提供した情報は、真実かつ正確なものであり、また、誤解を生じさせる可能性のある内容や事実の省略は存在しない
事業者は、表明保証条項にキャッチオール規定を設けられた場合には、
-
- 表明保証条項を内容ごとに分けて整理する
-
- 表明保証条項の内容が「正しい」といえるかを検討する
- 条項の文言に例外や限定を付ける提案をする
(1)表明保証条項を内容ごとに分けて整理する
まず始めに、表明保証条項を内容ごとに分けます。 たとえば、記載例にある規定は、以下のように3つの内容に分けて整理できます。- AはBが投資を決定するのに必要な一切の情報を提供していること
- AがBに提供した情報は真実かつ正確であること
- AがBに提供した情報には誤解を生じさせるような内容や事実の省略はないこと
(2)表明保証条項の内容が「正しい」といえるかを検討する
事業者は、(1)で整理した内容ごとに、自社の実態と照らし合わせて合致するかどうかを検討します。 事業者は、キャッチオール規定がカバーするすべての内容が自社の実態と合致していなければ、表明保証違反に問われる可能性があります。 そのため、キャッチオール規定がカバーする内容を一つ一つ丁寧に確認する必要があります。(3)条項の文言に例外や限定を付ける提案をする
キャッチオール規定は、既に見てきたように、表明保証の対象範囲を包括的に捉えるものであるため、本来は、(2)で見たように、キャッチオール規定がカバーする内容をすべて精査する必要があります。 とはいえ、たとえば、表明保証の内容と自社の実態との不一致が軽微であるような場合にまで、事業者に表明保証違反による責任を問うことは酷であるようにも考えられます。 そこで、規定に軽微なものを除く趣旨の文言(例外や限定)を設けることの提案をするということが考えられます。 以上のように、キャッチオール規定についても、事業者は上で説明したフローに従ってチェックするなどして、表明保証条項の内容が自社の実態に合致するように投資家と協議していく必要があります。6 ペナルティ
事業者が表明保証に違反した場合、
- 投資前:投資実行を中止される
- 投資後:投資家から株式買取請求をされる(プット・オプション)
7 小括
表明保証条項は、投資家が安心して投資を実行するために、デューデリジェンスを補完する意味合いで設けられることが多く、投資契約書の中に盛り込まれることが一般的です。
事業者は、投資を受ける際、投資契約書において表明保証条項が設定されることを前提に、その対象事項を、自社の実態と照らし合わせて、事実関係が本当に合致しているかを検討していくことになります。
表明保証条項に違反するとペナルティを科される可能性もあるため、自社の実態が表明保証の対象と合致しない場合、事業者は、規定の文言に例外や限定を付けるなどの提案をして、自社の実態に合うように投資家と協議していく必要があります。
8 まとめ
これまでの解説をまとめると、以下のとおりです。- 「表明保証」とは、事業者が投資家に対して、投資契約の締結日や実行日などの時点において、投資の前提となる一定の情報や事実関係が、真実かつ正確であることを約束することをいう
- 表明保証条項は、デューデリジェンスを補完するために、投資家の要請で投資契約に盛り込まれることが多い
- 表明保証条項で事業者が担保すべき事項は、①投資家の求める情報がすべて開示されたこと、②開示情報が「正しい」ということ、の2点である
- 表明保証条項に実効性をもたせるため、違反時のペナルティを設けている
- 表明保証条項が対象とする範囲は、会社の基礎的な事項、投資に関する事項、会社の事業に関する事項、など多岐にわたる
- 表明保証条項のチェックの流れは、条項の内容と自社の実態を照らし合わせて検討し、検討結果によって、①そのまま、②例外を設ける、③限定を付ける、という3つのいずれかの対応をする
- 「サンドバッギング条項」とは、投資家が、事業者による表明保証違反の事実を認識していた、もしくは認識することができた場合に、事業者が表明保証違反の責任を負うかどうかを定める条項のことをいう
- サンドバッギング条項には、①プロ・サンドバッギング、②アンチ・サンドバッギング、という2つのタイプがある
- 「キャッチオール規定」とは、表明保証の対象となる範囲を、包括的に記載する規定のことをいう
- 事業者は、キャッチオール規定について、①条項を内容ごとに分けて整理する、②表明保証条項の内容が「正しい」といえるかを検討する、③条項の文言に例外や限定を付ける提案をする、といった流れで検討していく必要がある











